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タカツグ@セブで海外起業とNGOで国際協力
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あなたは、月収1万円で家族を養えるだろうか?
それが、2023年、私たちがフィリピン・セブ市の山間部で出会った100世帯の農家の「平均月収」でした。
調査を通じて得られたこの数字は、決して統計表の一行で終わらせてはいけない、生きることの重みそのものです。
「耕しても、生きていけない」農業 という現実

フィリピン中部、セブ島の山あいに位置するTAPTAP地区。 そこには、セブ中心部から車で1時間ほどの距離でありながら、まったく異なる風景が広がっています。
赤土とぬかるみが入り交じった急な傾斜地に、へばりつくように広がる畑。土の質は粘土質で、乾くとひび割れ、雨が降ると泥状になる決して農業向きの土壌ではなく、それでも、この山に暮らす人々は、代々土地を守り、作物を育ててきました。しかし、その労働の対価が、月にわずか1万円(約4,000ペソ)でしかないという事実。 年間でわずか12万円程度。
一世帯あたりの年間農業収入が、都市部の月給の半分にも満たない。 この数字に、私たちはどう向き合うべきでしょうか。
努力が「捨てられる」構造
セブの山間部では、実に多くの野菜が栽培されています。スイートコーン、オクラ、トマト、キャベツ、カボチャ…。しかし、そのうち30-50%が、市場に届く前に、廃棄される可能性があります(JAEC The technical guidebook for Improvement of Vegetable Distribution system bookletより)。
なぜか? 答えは単純明快で、物流インフラが存在しないからです。
山から麓の市場へ作物を運ぶ手段は、古いバイクの荷台、軽トラック。
50kgの米を入れる袋袋(サック)を再利用し、これでもかとサックに詰め込まれ、荷台に山積みにされる野菜。その上に人が座って、山の麓にある市場まで1時間半〜2時間ほどかけて、到着する頃には、下部にある野菜はその重さで潰れ、売り物にならない。

雨が降れば、道は滑りやすくなり、段ボールを使ったとしても、箱はすぐに崩れる。 もしくは、日差しに晒された野菜はしなび、葉物はたった半日もすれば干からびて新鮮さを失う。
セブの暑さと湿気の中で、冷蔵も遮光もされずに運ばれる野菜たち。
出荷されたはずの数十%が、「努力ごと捨てられて」います。
農業が貧困を再生産する

問題は、それだけではありません。
都市部では値上がりする野菜や果物が、
なぜか産地の農家には利益をもたらさない。
なぜなら、農家が手にできるのは、「売れた分の20%」だけ。
野菜は、仲買人によって「購入される」のではなく、仲買人が市場まで運び、販売をし、「売れた分の20%」と言われた額が後日、農家に支払われます。
農家の手元に残るのは、野菜を作れども作れども、「生活費に足りない現金」だけ。 それでも肥料や種代は支払い続けねばならず、農家はお金を持っている仲買人に借金をし、借金で農業を続けている。そして、その仲買人に野菜を渡すしかなくなる。
この構造は、貧困が貧困を呼ぶループそのものです。
農業は、本来「食べていける」ものであるはずです。 それなのに、セブの山間部では、農業が生活を削る手段になってしまっている。それなのに、なぜ、彼らは農業を続けるのか。
答えは簡単です。
「それしかないから」。
「好き」では続けられない未来

多くの農家にとって、農業は暮らしそのものです。 朝早く起きて、畑に出て、汗をかいて働くことが「当たり前」になっている。
けれど、当たり前が報われない日々。
都市で暮らす私たちは、朝のサラダにレタスを食べる。 トマトをスライスし、バジルを添える。 でもその一皿の裏には、廃棄された多くの野菜と、月に1万円しか得られない農家の月収があるのかもしれない。
私たちは、セブの野菜の質が悪く、高くて美味しくない、と言いながらも、その高い野菜を買うしか選択肢がない。
そして、「子どもの学費も払えない。野菜はあるのに、生活は苦しいまま」。これが、セブの山岳農家にとっての日常です。

数値に見る現状
セブ州では、2024年上半期に野菜と根菜の生産量が18,246.75トンと報告されています。これは前年同期比で9.73%の増加ですが、農家の収入には直結していません。Philippine Statistics Authority
私たちが支援をする農家100世帯の収入の中央値は、約4,000-5,000ペソ(約10,000円ほど。2023年8月団体調査より)。しかし、セブ市全体で見ると、セブ市の農業労働者の平均月収は約13,927ペソ(約35,000円)とされています。その中には、富裕層の営む充実した設備での農業や、カンパニーが行う農業なども含まれます。しかし、その金額も、全国平均と比べると低い水準です。 Salary Expert
さらに、農家が市場で受け取る価格は、仲買人を通すことで市場価格の20〜50%程度にとどまることが多く、収益性を大きく損なっています。
知識と土壌の問題:肥料依存と収益圧迫
多くの農家は、適切な農業知識を持たず、肥料や農薬の使用方法を誤っています。その結果、土壌が痩せ、収量が年々低下しています。
例えば、フィリピンでは1ヘクタールあたりの肥料使用量が平均285kgと報告されており、これは過剰使用の傾向を示しています。 tradingeconomics.com
また、肥料価格の高騰も農家の負担となっており、2021年には肥料価格が大幅に上昇し、農家の利益率を圧迫しています。 Fertilizer and Pesticide Authority
教育と情報の非対称性:知識へのアクセスの欠如
農業労働者の教育水準は低く、約38%が高校までの教育しか受けていないとされ、私たちの受益者は、86%が中等教育を修了していません。また、情報へのアクセスも限られており、インターネットやスマートフォンの普及率が低いため、新しい農業技術や市場情報を得ることが困難です。pids.gov.ph
このような状況では、農家が自らの力で生産性を向上させることは難しく、外部からの支援が不可欠です。
農家の自立を支援するためには、教育や技術指導、資金援助など、多方面からの支援が必要です。例えば、JICAや地方自治体は、簡易堆肥化システムや土壌改良の普及、リーダー育成などの支援を行っています。
しかしそれらも限定的で、セブ市の農家全体の生活向上には程遠く、あらゆる支援が待たれています。
農家を孤立させない。社会と産業の橋渡しを
僕はいつも、NPOやNGOが率先して自治体や公的機関と協働し、まずはマイナスをイチにする必要がある、と言っています。誰もが「普通に」農業で生活していける状況を公的資金の導入によって実現し、その中で、さらに多くの利益を得たい、お金持ちになりたいと考える農家に対しては、ビジネスが価値を加えていくべきだと思っています。
自立型農業の未来を築くためには、集落単位でのブランド化、小規模加工、ツーリズムなどの「出口戦略」も必要です。
「僕たちは“かわいそうな農家を助ける”のではない。“ともに立つ”未来をつくる。」
この信念のもと、僕はNGO職員として、今後、JICAや自治体と協働し、農家の力だけでは解決できない現実を打開し、持続可能な農業の未来を築いていきたいと考えています。
あきらめない選択肢をつくりたい

この現実を知ったあなたに、ひとつだけお願いがあります。
セブの観光地に足を運ぶ人は多くても、その背後にある農村の暮らしを知る人はほんのわずかです。 1日数百円で暮らす家族が、傷んだ野菜を手で拾い集めている光景を、あなたは想像できるでしょうか。
数字は冷たいかもしれない。
でも、その背後には、いつも「誰かの暮らし」が確かにあります。
月収1万円。廃棄率、数十%。利益率、20%。
これらの数字を、どうか忘れないでください。
そして、それを「変えようとしている人たちがいる」ことも。
どうか、セブの山に届く風の中に、あなたの想いも重ねてください。
セブの農業の未来に、小さな希望の芽が育ち始めています。

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