◎企業のためではなく、社会のために貢献したい
枝木 八尋さんがNGOに参加したきっかけは?
八尋 損害保険会社で国内営業、海外駐在、本社でのリスク管理・コンプライアンスを担当の後、2014年から2年間、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンに出向しました。この2年間が転換期でした。ちょうど国連でSDGsが採択されて日本での普及に取り組むことになり、NGOの人たちとも知り合って、こういう世界もあるんだと、自分が少しでも役に立てたらなと考えだしたのがきっかけですね。
その後、一旦会社に戻って、関連会社で自動車事故を減らす仕事に携わりましたが、民間会社の仕事ですから、サービスを提供するのは契約者だけです。もっと広く一般社会に向けて貢献したいと思うようになったのと、企業時代は会社のために働いていたけれど、定年に近づくにつれて、会社のためではなく社会のためにできることがあれば頑張りたいと思いました。転職してから6年。この業界ではまだまだ若輩者です。
◎驚き:会議が長い! 業界内の結束力が強い!
枝木 NGOで働くようになって、新たな発見はありますか。
八尋 この業界に入ってびっくりすることはありました。ひとつは、会議の時間が長いこと。全職員で合意を形成しながら、きめ細やかな決定をしていく文化が脈々と続いています。これは民間企業では難しいですね。関係する人数も違いますが・・・。極力、会議の時間を短くしようと働きかけはしています。
枝木 会議も「参加型」ですよね。現地でも、地域住民の声を拾い合意して進めるプロセスを重視しているので、それを日本の事務所でも同様に大切にしていると。
八尋 それと業界内の横のつながりがとても強いと思います。たとえばODAに関してもいろいろな会合があるし、JANICのワーキンググループをみても強いつながりがあります。同業他社とのつながりは企業でもありますが、企業の場合、相手は競争相手。どこまで相手の話を信用していいのかというリスク管理が、企業ではあるんですよね。
NGOはこれまでそれが必要だったからそういう関係性ができたんでしょう。ただ、助け合いという意味でいいのですが、甘えすぎではというネガティブな感覚もあります。民間では同業他社は公正取引法の観点から微妙な部分があるんです。そういう面で業界内だったら問題にならないけど、業界外から、一般社会の目からみたらひっかかる話もあるんじゃないかなと。
枝木 最初のお話に戻りますが、NGOの時間の使い方は企業とは違うんでしょうか。
八尋 私が働いていた会社では、会議は基本1時間。10人で1時間会議するというのは、組織としては10時間使ったことになります。
その時間があれば他の仕事ができるわけです。それでもそれによって、意思決定しなければならない時もありますが、これが3時間になると考えると・・・。職員にはそれだけ報酬も払わないといけない。こういう考え方は民間企業には浸透しているけれど、この業界ではあまりないように思えます。
一方で、時間をかける良さも確かにあります。シェアは、昨年で40周年を迎えていくつかの記念行事を行いました。1年半かけて準備をして、それにはものすごく時間をかけました。よかったのは、私を含めてシェアの歴史を知らない人が大半な今、そこを全員で学ぶことになりました。シェアが40年かけて築き上げてきた理念、使命、価値観などについて議論をする中で、全員の目線が揃えられたと思います。
◎最近の応募状況 ー 待遇の改善が求められる?
枝木 最近、人材募集の状況はいかがですか。シェアは国内外の現場もあれば、国内で広報や国内啓発事業的なバックヤードの仕事もありますが。
八尋 非常によくないですね。業務内容問わずに応募者が少ないです。応募があってもなかなか求めている人材ではないこともあります。わたしが入職した当初は、少なくとも3~4人は書類選考を通過していましたが、最近は難しい。
枝木 応募が少ない原因は何だと思われますか。
八尋 ひとつは、待遇面かと。民間企業はこの2-3年で給与アップしていますから。NGO全体で、働こうという人が少なくなっているのではという懸念がありますね。
枝木 他の団体からも募集をかけても応募がないと聞きます。
八尋 私自身がNGOに転職できたのは、子どもも巣立ち、住宅ローンも払い終わって、あとは自分たちの生活だけ考えればよかったので、思い切ることができました。それを考えると業界全体でベースをあげていかないとなかなか若い人がこないと思います。もちろん、やりがいを感じるから来る人はいるでしょうが、人生をかけてとなると業界全体の待遇を改善しないといけないんでしょう。
◎NGOは市民の代表になり得ていない?
枝木 シェアでは具体的に何か取り組まれていますか。
八尋 いろんな人が夢をもって働ける環境をつくらなければならないなと思います。そのために、今年からの5年間の中期計画の中で、待遇改善や、海外の事業地も2か国から3か国にすること等を目標に取り組みを始めています。
そのためには、財源の拡大をしないといけません。いまは東ティモールがN連で、カンボジアがJICAからの受託。こうした公的資金は、申請をしても採択されるかどうかというリスクは絶対にあるので、バックアップの財源を少しでも作らないといけないんですね。そのためには海外の事業地を少なくとももう一箇所増やして、それに対する財源を開拓する。また、それぞれの事業で、公的資金以外のスポンサーを探す努力をしようとしているところです。
枝木 八尋さんの企業人としての視点が生きている気がします。
八尋 拡大均衡できるのか?という疑問は根強くあって、総会も荒れました。しかし、縮小均衡だと職員もモチベーションがあがりませんよね。
枝木 アーユスも、何にいくらか使うかという判断をどこでどうしていくのかとても悩ましいです。NGOの中だけでやってきた人間しかいないと、打って出るという決断をするのが難しいと感じることがあります。
八尋 決して私が決断したわけではなく、組織として決めたわけですけどね。シェアも諸先輩のおかげで公的資金がとれているのが現状です。N連とJICAをあわせて6割を越えます。しかしこれが止まったときのリスクはとても大きい。
特に妙案がでたわけでありませんでしたが、それでも考えたことは確実にやっていくことになり、一定の経費をかけてウェブサイトを刷新し、各事業の紹介動画も作りました。昨年はクラウドファンディングができずに寄付金は低調だったのですが、この5年間で少しずつ増えてきています。また待遇改善も、給与水準の引き上げまでは至らなかったのですが、賞与の支給など、取り組めるところから始めたところです。
寄付はもっともっと増やせると思うんです。ただ、これという道があるわけではありません。ただ、できていないこともあるだろうと。これを言うと職員からまた言われてしまうんですけどね(笑)。私は、身の回りで理解者・支援者を増やせないかとは思っています。
枝木 八尋さんもご自身のお知り合いに、かなり声がけされているんですよね。
八尋 はい。入職した時は、企業寄附をもっと集めたいと思っていますがこれがさっぱりでして、それは自分の力を過信していました。
そうはいっても、何とかしなければという思いで、幼稚園から小中高大時代の友人たち、企業時代の上司、同僚、後輩等で、連絡がとれる人に、年に1回、これまで300-400人くらいに寄付をお願いしました。
私の友人なので、そろそろ会社を卒業する人たちが多く、「社会のために何かしたいと思っていたが何をしたらいいかわからない、寄付にしてもどこにしたらいいのかわからなかった。八尋が声をかけてくれたので一歩踏み出せたよ」と言ってくれる人はけっこういたんですね。
日本のNGOは、市民活動を行っていますが、決して市民の代表になりえていないのではと思います。関係のある人がやっている活動を応援してくれる人を、業界全体で増やしていけば、日本の市民活動が本当に市民活動として定着していけるんじゃないかなと、そんな思いがあります。
◎みんなでこの地球をよくしていきましょう:これからNGOで働く人たちへのエール
枝木 待遇が必ずしもいいわけではないNGO業界ですが、それでも、入ってくる人がいる、続ける人がいるというのは、何か魅力があるからだと思います。八尋さんからみた魅力を教えてください。
八尋 それはやりがいだと思います。困っている人を支援するということ。自分はいま困っていないけれど、場合によっては自分の子どもがそうなるかもしれない。SDGsが「誰ひとり取り残さない」といったのはそこだと思います。
企業時代は会社のために頑張りましたが、NGOでは社会のために頑張っていると思っているし、周囲にもそう言っています。企業も会社のために尽くせば社会のためになるというのはあります。しかし社会全体にサービスを提供できるわけではない。あくまでも契約者や消費者が対象。でも、NGOは社会全体にどう貢献していくのか、いまの社会だけでなく子ども世代、孫世代にもどう貢献するかを考えて動く場所。地球がいまこんなことになっているのは、むやみに地球の利益を享受してきた我々の責務だと思っています。いま生きている我々ががんばらないと。
枝木 最後に、これからNGOで働く人のためにエールをお願いします。
八尋 社会課題に対して問題意識を抱えている若い人は多いと思います。それへの取り組みのオプションのひとつとして、NGOも考えてもらえたらと思います。自分たちが生きている日本、世界、地球をどうしていくのか。それを良くしていく動きを、みんなの力で頑張っていける未来にしていきたいです。頑張れるうちは自分も頑張りたい。そういう人たちを受け入れられるNGOであるよう努力していきたい。
みんなでこの地球を良くしていきましょう、そう言いたいです。
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