「田谷の洞窟」とは
「田谷の洞窟」は、横浜市栄区田谷町の定泉寺の境内にある小さな里山「田谷山」の地中に鎌倉時代からあると言われる、全長570m、三層構造、大小11のドーム状空間を配し、壁や天井に約250点ほど(数え方による)の美しい浮彫レリーフが彫られている「横浜市登録史跡」の地下文化財です。諸説ありますが、鎌倉時代から掘り始められ、江戸時代後期に今の形になったと考えられています。今も昔も、真言宗の修行道場であり、正式名称は「田谷山瑜伽洞(たやさんゆがどう)」と呼ばれています。「瑜伽(ゆが)」とは、ヨガの語源です。その始まりと詳しい歴史は、関東大震災の時に定泉寺が崩壊して古文書等の資料が失われてしまったために明確ではありません。
この巨大な地下空間に一歩足を踏み入れると、いくつもの不思議に出会います。「なぜこんなところに掘ったんだろう?」「どうやって掘ったんだろう?」「電気のない時代に松明だけで、どうやって繊細なレリーフを彫ったんだろう?」などなど、いくつもの不思議「なぜ?」に出会うことができる、あまり知られていない日本でも珍しい巨大な地下文化財です。(田谷の洞窟とは)
現在、急速な劣化・風化が進んでおり、私たち保存実行委員会の学際的な基礎調査では、その原因は様々な複合的な現象が重なっているためだと判明しており、特に気候変動による要因が大きな問題になっていると考えられます。このままだと近い将来にこの美しい地下空間が失われる可能性があり、後世に残すことが難しい状況になりつつあります。
なぜ保存活動が必要なのか?
田谷の洞窟は、「5つの止まらない」で困っています。
1つ目は「劣化・風化」です。洞窟の地質は乾燥とCO2による酸化に弱く、参拝客の吐く息やろうそくなどによって劣化・風化が進んでいる恐れがあります。
2つ目は「ゲリラ豪雨」です。明らかに気候変動が起きてます。気象庁の統計でもゲリラ豪雨の発生回数は年々増加しています。ゲリラ豪雨の後に降雨により佐多山地中に浸透した雨水の水圧によって2~3センチの厚さで天井が剥離する現象が起きます。
3つ目は「参拝客による落書き」です。心無いいたずらが増加しています。一度傷つけられた同壁を元に戻すことは不可能です。洞壁を火で焙ったあとまで発見されています。
4つ目は「高額な修繕費」です。文化財とは言え行政からの支援を頂く事は出来ません。小さなお寺だけでこの巨大な地下文化財を保全するには大変な額の出費をこれまでに支出しています。
5つ目は「宗教離れ」です。国の宗教統計でも信仰を持つ人の人口減少が著しく、20年後には人口の10%程度まで減少すると推測されています。定泉寺は末寺で檀家数も少なく、今後定泉寺だけでこの巨大な地下遺産を次世代に継承し続けることは、大変困難な状況になっているのです。
これら「5つの止まらない」は、人知を尽くしてもとても止められるものではありません。しかし、田谷の洞窟からは環境や社会、技術や美術など多くのことを学ぶ事が出来ます。どうにかして次世代にこの貴重な先人たちの技術の結集と美意識を残すことはできないでしょうか?この保存活動は、少子高齢化社会を迎えいている我が国の小さな地域の生き残りのための地域アイデンティティの確立には外すことのできないCivic Pride醸成につながる大切な行動だと考えるのです。
田谷の洞窟保存実行委員会は、このような考えのもと、定泉寺の公認を得て、文化財の素人が地域とともに活動するために、2017年に発足しました。(田谷の洞窟保存実行委員会とは)
学術調査~小学校地域教育までに及ぶ多分野横断型の活動です
学際的な基礎調査~地域デザイン~教育的アウトリーチまで、多分野横断型の洞窟保存活動
洞窟を保存するためには。上部の里山、地下水などの周辺里地環境の保全がとても重要です。従って、文化財という視点からだけでは不十分で、地質・地盤・地形・環境など様々な分野の専門的な調査と状況把握が必要となります。
洞窟は複雑に地中を縦横無尽に掘られています。里山地中の洞窟自身の空間形状がどのような形で、どの深さに位置しているのか正確に把握する必要があります。これにはレーザー測量やドローンを使った写真測量など様々なデジタル測量が必要です。(基礎調査の様子)
また、洞窟の上の里山には何人もの一般地権者がいます。「洞窟を守るために里山を保全してください」とは簡単に言えない都市近郊農村の状況があり、こちらの立場だけで保全を訴えるには、無理があります。地権者にとって里山・里地の有効利用の検討をし、里山・里地を所有していてもメリットがあるなどの共生型の地域づくりも考えなければいけません。(地域づくり活動の様子)
このように、田谷の洞窟の保存活動は、多分野横断型の活動をする必要があります。
そして、もう一つ。この活動や田谷の洞窟そのもの、周辺の都市近郊農村地域を大切に思うCivic Pride醸成のために、人材育成や地域啓発などのアウトリーチの活動も重要な活動の一つとしています。特に地域の公立小学校への「総合的な学習の時間」を活用した探究的地域学習の授業の提供を行い、教育的なアウトリーチなどの人づくりの活動を各分野の研究者と地域と協力して行っています。(人づくり活動の様子)
ご寄付・ご支援のお願いと、その使い道
ご寄付を頂く田谷の洞窟保存活動方針
田谷の洞窟保存活動は、多くの方々からのご寄付・ご支援でのボランティア活動の非営利任意団体です。少ない原資を基に、3つの基軸を基本方針として活動しています。
① 学際的基礎調査(田谷の洞窟の状況を知るための活動)
② 地域づくり(洞窟と地域の共生のための地域デザインの検討活動)
③ 人づくり(未来につなぐ人材育成、啓発、アウトリーチの活動)
本体そのものの保全のみに関わらず、デジタルアーカイブを作成して未来に記録と記憶を継承することを目的としています。文化財の素人が各分野の専門家を探して協力をお願いすることから始めました。その活動は、「愚直に」「着実に」「迅速に」活動を続けています。2018年にイタリア国立研究会議から「地下遺産の保全と利活用の国際共同研究」のオファーを頂き、埼玉大学の研究者のご協力で2019年から国際的な活動に展開するようになりました。(二国間共同研究)
皆さまからのご寄付は、調査に使用する年間200本にも及ぶ乾電池などの消耗品費をはじめ、調査資機材購入費、事例調査などの旅費交通費、図書費、印刷費、外部委託費、謝金などの活動・運営維持費に使わせて頂きたいと考えております。
特に、2017年より進めている公立小学校6年生への研究者と地域と協力して実施している探究的地域学習の授業提供には、年間概算70万円あれば、持続的に実施することが出来ます。これまで、本会活動に関わる分野(文化財、地域づくり、建築、地盤など)へ進みたいと希望する児童が何人も出てきています。(小大連携プロジェクト)
ここまで、ご興味を持っていただき、ありがとうございます。
何卒、皆様からの温かいご支援・ご寄付を頂けますよう、心よりお願い申し上げます。
田谷の洞窟保存実行委員会 委員長 田村 裕彦