「見えない」世界の中で、誰にも相談できずに
孤立・困窮している女性たちがいます。
2024年9月現在、全国で約42万人以上の女性が、性風俗産業で働いていると言われています。
そんなに多くの女性が、性風俗の世界で働いていたのか、と驚かれた方も多いと思います。
世間的には「遊ぶ金欲しさで働いているのでは」と思われがちですが、大半の女性は、他の仕事と同じように、毎月の生活費や学費、子どもの養育費のために働いています。
また「楽して高収入を得られる仕事」とも思われがちですが、客数や指名の数によって収入が日々変動する不安定な仕事です。決して、誰もが簡単に稼げる仕事ではありません。
そして、家賃滞納や多重債務、精神疾患、DV・盗撮・性暴力被害などの課題に直面しているものの、誰にも・どこにも相談できないまま、孤立と困窮を深めてしまう女性が少なくありません。
そんな彼女たちの姿が、私たちの目に映ることはほとんどありません。現在の性風俗業界は、無店舗型のデリバリーヘルス(通称デリヘル)が主流であり、女性は、お客の待つホテルや自宅に派遣されてサービスを行います。
店舗の看板もなく、インターネットでの集客・求人が中心になっているため、女性たちがいつ・どこで・どのように働いているかは、外からは全く分かりません。
そして、世間の偏見や差別を恐れて、働いていることを誰にも言わない女性が大半であるため、彼女たちは「見えない」存在になっています。
新型コロナによる社会的な自粛・休業の拡大と、それに伴う経済状況の悪化は、こうした「見えない」女性たちの生活にも大きな影響を与えました。
性風俗の仕事で得られる現金日払いの収入によって生活を維持していた人は、家賃やカード、携帯代などの毎月の支払いができなくなり、一気に生活困窮の状態に追いやられることになりました。
不安に追われる中で、「働いていることを言えない」という理由で、誰にも助けを求めることができず、社会的に孤立してしまう女性も少なくありません。
子の学費、親の介護を性風俗で支える (40代:ひとり親)
シングルマザーのAさんは、高校生の子どもと要介護の母親と同居しています。
親の介護のためフルタイムの職にはつけません。子どもの学費と生活のため、短時間で高収入を得られるデリヘルでどうにか家計を回しています。
しかし、コロナの影響で仕事が無くなり、生活が成り立たなくなってしまいました。
出勤しないと家族を養えない。子どもも進学できない。
しかし、風俗で働いていることを知られるのが怖くて、誰にも相談できていません。
軽度知的障がいを抱えながら、性風俗で働く(30代:独身)
子どもの頃から何かを覚えることが苦手でした。
中学校を卒業後にアルバイトを転々としてきましたが、どれも長続きしません。
今は昼間は派遣で介護の仕事をしています。でも、自分でお金の管理ができないため、カードローンの負債は100万円を超え、利息の支払いで精一杯。
生活のため、土日に格安のデリヘル店で働くことにしましたが、月に数万円程度の収入にしかなりません。現在、医療にも福祉にもつながっていません。
彼女たちが昼の仕事に就けない様々な理由があります
☑ 小さな子供を抱えており、子育ての合間時間にしか働けない
☑ 親の虐待から逃れて、今日の食事と寝る場所を自分で確保しないといけない
☑ 発達障がいのために、努力しても職場の人間関係になじむことができない
☑ うつ病のために朝起きられず、不規則に出勤できる仕事でしか働けない
そして、性風俗で働くことでさらに彼女たちの孤立は深まり、状況は悪化します
世間からの孤立
「働いていることを誰にも言えない」「身バレが怖い」という理由で、生活に困っても助けを求めることができず、行政や福祉などの相談窓口にもつながれないまま、社会的に孤立してしまいます。
心身のリスク
盗撮や性暴力、性感染症や望まない妊娠のリスクに常にさらされています。そしてマナーの悪い男性客の言動、ネットでの誹謗中傷などによる心身のストレスから心を病んでしまうこともあります。
抜けられない悪循環
その日のうちにまとまった収入が得られる現金日払い制、好きな時に好きな時間だけ働ける完全自由出勤制といった働き方や金銭感覚に慣れてしまうと、普通の仕事に戻ることが難しくなってしまいます。
風テラスは、性風俗の世界で孤立・困窮している女性たちの「今」を受け止め、「次」につなげる活動をしています
私たち「風テラス」は、性風俗の世界で働く女性のための無料生活・法律相談サービスを、2015年より運営しています。2022年4月にNPO法人化し、「NPO法人風テラス」として活動しています。
性風俗の世界で働く女性の方々が、現在抱えている悩みや困難(借金、離婚、障害、病気、介護、育児、DVなどの問題)を、性風俗で働いているという事実を隠さずに、安心して相談できる機会を作ることを目的にしています。
相談に来られる女性は複雑で多重化した悩みを抱えていることが多いため、弁護士・ソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)がチームで相談に乗ることで、問題の全体像を明らかにし、解決の糸口へと導くお手伝いをしています。
1.「つながる」ためのSNS相談・・・女性たちに「今日の安心」を届ける
夜の世界で孤立・困窮している女性に対して、SNSを通した情報発信と相談受付を行っています。メールやLINEで全国から相談予約を受け付けています。
2020年のコロナ禍以降、風テラスに寄せられる相談の件数は急増~高止まりの状態が続いています。2023年は、ウェブ広告を出稿して相談者を募る取り組みを行った影響(+787件)もあり、一年間で合計4,503件のご相談が寄せられました。
2.風俗女子のお悩みを解決する啓発マンガ「あしたの嬢」
「高収入」という求人情報に惹かれて、あるいは友人に誘われるまま、性風俗の仕事に関する知識や情報を全く持たずに、この業界に入ってくる女性も少なくありません。
店舗とのトラブル、性暴力、性感染症、ネットの誹謗中傷などのトラブルが起こった際の対処方法や、税金や社会保障の仕組みを知らないと、後々大きな問題に発展してしまうことがあります。
風テラスでは、働く女性が現場でぶつかるトラブルへの対処法を、わかりやすいマンガの形で発信しております。
3.当事者の女性たちが集い、話し合える自助グループの運営
性風俗の世界で働く女性たちの中には、「仕事のことを話せる相手が誰もいない」と悩んでいる人や、「同業者の女性と、仕事の悩みや愚痴を語り合いたい」と考えている人が少なくありません。
当事者の女性たちが自分自身の気持ちや悩みを安心して話せる場として、風テラスでは、LINEミーティングを活用したオンライントークスペース「女の子たちの60分フリー」を定期的に開催しています。
女性のスタッフがファシリテーションを行い、毎回和気あいあいとした雰囲気の中で、様々なトークが交わされています。
彼女たちのニーズをしっかり受け止め、適切な支援につなげる
弁護士とソーシャルワーカーのチームで、借金、離婚、DV、店舗とのトラブル、ストーカー、ホストの売掛、ネットの誹謗中傷、性暴力被害、メンタルヘルス、社会保障の手続き、子どもの学費など、様々な生活・法律相談に応じています。
法律的な課題と福祉的な課題が入り混じったご相談も多く、弁護士とソーシャルワーカーがそれぞれの専門知識と持ち味を活かしながら、そして共感的な態度で相談者の気持ちに寄り添いながら、一緒に解決方法を考えていくお手伝いをしています。
他の支援団体や医療機関、及び全国各地の専門職や連携先とのネットワークをつくることによって、夜の世界で明日が見えずに孤立・困窮しているすべての人に、「明日の選択肢」を届けることを目指しています。
夜の世界で生きる女性たちを孤立させない社会をつくる
性風俗の現場で起こっている課題に対して、社会の理解を深め、支援の輪を広げるために、書籍・研修・イベントでの情報発信に取り組んでいます。
▲風テラスの現場から得られた経験や課題を書籍で発信
▼YouTube広告で、相談窓口の存在をPR
最近の活動・メディア掲載
2024年8月 『社会福祉研究』 (2024年8月号) に理事長・坂爪が論文「性風俗の世界で孤立・困窮している女性への支援」を寄稿
2024年8月 『月刊ガバナンス』に「風俗で働く若年女性へのデジタルアウトリーチ事業」の成果を寄稿
2024年6月11日 朝日新聞「ひと」欄にて、副理事長の徳田玲亜弁護士が紹介
2024年3月29日 中日新聞「あの人に迫る」で紹介
2024年1月26日 医学雑誌『ランセット(THE LANCET)』に掲載
2023年11月16日 NHKニュース「ホストの売掛問題」に風テラスの弁護士がコメント
2023年9月30日 「SDGs岩佐賞」【平和・人権の部】を受賞しました
2023年9月22日 2022年度の活動報告書を公開いたしました
2023年9月4日 「新潟県困難な問題を抱える女性への支援計画(仮称)策定委員会」に出席
2023年6月28日 東京大学の「法と社会と人権ゼミ(自主ゼミ・通称川人ゼミ)の課外フィールドワークで特別講演
2023年6月1日 取材協力したドキュメンタリー「閉じ込められた女性たち〜孤立出産とグレーゾーン〜」がYouTubeで公開されました
2023年2月23日 新潟県弁護士会人権賞を受賞
あなたのご寄付で、彼女たちとのつながりが広がります
様々な課題や困難を抱えながら性風俗の世界で働いている女性たちに対する支援は、まだまだ不足しています。福祉や司法の世界においても、性風俗に対する偏見や差別、無理解などのために、この領域に関わる支援者は限られているのが現状です。
風テラスでは、こうした現状を少しでも改善し、つながりづらい世界で働いている女性たちが、必要に応じて適切な専門職や窓口につながることのできる仕組みを作っていきたいと考えています。
2024年4月から、困難な課題を抱えた女性を支援するための法律(困難女性支援法)が施行されます。
こうした時代の流れの中で、夜の世界で孤立・困窮している一人でも多くの女性とつながりながら、彼女たちに「今日の安心」と「明日の選択肢」を届ける支援の必要性を社会に訴えていきたい、と考えています。
■■■あなたの寄付で、実現できること■■■
※1年間のご寄付で実現できること
月1,000円で 6名の女性がソーシャルワーカーの相談員とつながり、必要な支援を届けることができます。
月5,000円で 30名の女性とつながり、必要な支援を届けることができます。
月10,000円で 60名の女性とつながり、必要な支援を届けることができます。
継続寄付(マンスリーサポート)をする
寄付(一回の寄付)をする
風テラスに相談された方の声
「お忙しい中お時間を作っていただき、本当にありがとうございました。親身にお話を聞いてくださったり、情報を提供してくださったり、心から感謝申し上げます」(20代・デリヘル)
「お優しい女性の方の声で励まして頂けたことで、心が軽くなりました。相談員の皆様もご多忙な毎日かと思いますが、くれぐれもご自愛なさってください。本当にありがとうございました」(30代・デリヘル)
「先日はありがとうございました。その後、生活保護も決まり、自己破産に関しても弁護士の先生にお世話になり順調に進んでいます。まだまだ道半ばですが、早く普通の生活に戻れるよう、がんばりたいと思います」(30代・ソープ)
「本当に相談させて頂いて良かったと思いました。コロナの中、仕事を続けることに対する恐怖心がとても強かったので、感謝の気持ちでいっぱいです」(40代・デリヘル)
「お忙しい中お時間を作っていただき、本当にありがとうございました。親身にお話を聞いてくださったり、情報を提供してくださったり、心から感謝申し上げます」(30代・ヘルス)
風テラス相談員の思い
「改めて思ったのは、風俗で働くことを肯定も否定もしないことの大切さです。ただ債務整理をするだけでは、その人の人生の課題は解決できないこともある。客観的な事実としての大変な部分の問題解決に焦点を当てて、フラットに困りごとを相談できるようにしなければいけない」(弁護士 鈴木さん)
代表者からのメッセージ
坂爪真吾(さかつめ・しんご)
NPO法人風テラス理事長。1981年10月21日新潟市生まれ。東京大学文学部卒。
私が風テラスを立ち上げるきっかけとなったのは、2015年に東京・鶯谷の激安デリヘル店を取材で訪問したことです。雑居ビルの中にあるお店の待機部屋には、生活困窮・多重債務・DV被害・発達障害・軽度知的障害・精神疾患など、様々な困難や課題を抱えた女性たちが集まっていました。
明らかに福祉的・法律的な支援が必要にもかかわらず、彼女たちの多くは、公的な支援をほとんど受けられていない。仕事のことを誰にも話せないため、行政にも、支援団体にも、どこにもつながれない。
「この待機部屋に、彼女たちを適切な支援につなぐソーシャルワーカーがいれば・・・!」と痛感しました。
そこで、知り合いのソーシャルワーカーと弁護士に声をかけて、店舗の経営者の方のご協力を頂いた上で、お店の待機部屋で女性向けの無料生活・法律相談会を開催したのが、風テラスの始まりです。
開始から約9年で、1万人を超える女性の相談を受けることができました。しかし、45万人もの女性が働いている性風俗の世界には、社会的に孤立し、誰ともつながることのできていない女性たちが、まだまだ大勢存在しています。
一人でも多くの女性とつながり、彼女たちの孤立を解消するため、あなたの力を貸してください。あなたの温かいご支援、お待ちしております。