森林火災が引き起こす生物多様性の喪失、温室効果ガス排出、煙害
ボルネオ島(カリマンタン島)は、オランウータンやテングザルなど希少な動植物が生息する生物多様性の宝庫ですが、その森は近年大規模な森林火災の脅威にさらされ続けています。
2015年には、インドネシアで数ヶ月にわたって起きた森林火災により東京都23区の41倍にあたる260万ヘクタール以上の熱帯林や泥炭地が被災しました。
多くの生き物の命が奪われたことに加えて、莫大な炭素を含む熱帯泥炭地の燃焼により温室効果ガス排出量は9~10月の2ヶ月間だけで日本の年間排出量を上回る16億トンを超えて、気候変動に大きな影響を与えました。
また、有害なスモッグとなる煙が発生する「煙害」により、インドネシアのみならず隣国のマレーシアやシンガポールでも大気汚染が最悪レベルとなり、子どもたちを中心に呼吸器などの健康被害も深刻な問題となりました。
学校が閉鎖されたり、各地へのフライトが欠航になるなど、多くの市民の生活にも影響しています。
さらに、2019年にも再び大規模な森林火災がインドネシアの各地で発生し、東京都23区の26倍にあたる約165万ヘクタールが被災しました。
(2015年、19年ともにインドネシアの森林火災焼失面積はインドネシア政府公式発表の数字です。実際にはそれを上回るとの研究もあり、2019年は311万ヘクタールが焼失したという数字も発表されています。)
命がけで消火活動を行うボルネオ島の仲間たち
これらの火災に対して、現地協力団体の仲間たちは、日々の防火パトロールや火災発生時の迅速な消火活動により対応しています。日本側からもみなさまからの寄付により現場での活動費の支援や消火に必要な備品購入などでサポートしてきました。
これまで植林を行ってきたエリアについては特に重点的に消防活動を行い、2019年には植林地の目と鼻の先でなんとか炎を食い止めることができました。
消防車も入れないジャングルの奥で、火から身を守る装備さえ満足に持たず、目の前の炎と戦う「ヒーロー」たち。
「もう3週間も休まずに消火をし続けている…」
「全身が熱くて、自分に水をかけないと火に立ち向かえない!」
「火災はもう懲り懲りだ、でも自分の心に従って消火に行くんだ」
そんな想いを抱えながら、火災と戦ってきた彼ら。
火事が見当たらない日でも、必ずパトロールに出かけます。
来る日も来る日も、大雨が火を消してくれることをひたすら祈りながら…。
(残念ながら人力だけでは広範囲にわたる火災を完全に鎮火することは難しく、通常11月頃に訪れる雨季とともに雨が降り出すことで最終的に火災が止まります。)
活動地について
現在、ウータン・森と生活を考える会ではボルネオ島インドネシア領の下記3つのエリアにおいて消防活動の支援をしています。
①中央カリマンタン州タンジュン・プティン国立公園地域
タンジュン・プティン国立公園は、世界的なオランウータン保護区の一つであり、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)にも選ばれている生物多様性の宝庫。しかし、アブラヤシプランテーションの拡大によって森林火災のリスクが高まっており、2015年には近隣の村から飛び火した火災が燃え広がり、国立公園の1/4が被災してしまいました。この地域は熱帯泥炭地も多数存在し、さらなる気候変動への影響も懸念されています。
普段から植林やエコツアー等の活動で協働している草の根団体Tanjung Lestariと一緒に、国立公園やその周辺地域(過去の植林地含む)の見回りを行っています。
▲ジェットシューター(背負式水のう)と木の枝で消火活動をする様子
②東カリマンタン州ムラサ村周辺地域
いまだ豊かな森が残されているものの、今まさにアブラヤシ農園(パーム油)や石炭の開発が迫ってきており、森の分断化や劣化が進んでいる地域です。特に農園開発は整地のための火入れを伴うことが多く、それがしばしば火災発生の原因となっています。(この地域での伝統的な焼畑においては周囲に延焼しない方法がとられていますが、近年無責任な方法での火入れが増えています。)
この地域で自然保護とコミュニティの経済的活性化の両立を目指した果樹の植林や開発によって棲家を失った野生動物の保護を一緒に行っている地元団体CAN (Conservation Action Network) では、植林地や住民の農地を見渡せる場所にスタッフが常駐して火災の監視をしたり、火災を通報してもらうためのホットラインの設置などで地域住民との連携・啓発に力を入れています。
▲火災監視用の小屋と啓発バナー
③西カリマンタン州北部
西カリマンタン州の北西部にあるブンカヤン地域でも、上記のCANが支部を置き新しく植林活動を始めつつあります。植林予定地には直接的な影響はありませんが、周辺の村の森が燃えてしまったり、西カリマンタン州の各地で大規模な火災が起きており、泥炭地の火災も含まれます。CANでは同州にある6地域での森林保全ボランティアとネットワークをもっており、その取りまとめやボランティアチームが出動する際の費用面でサポートしています。
CANからは8月中旬から月末までの間だけでも4ヶ所での大規模な火災の報告があり、現場のボランティアは昼夜を問わず消火活動にあたっています。今はまだ全体像は分かりませんが、迅速なサポートが必要なためすでに約25万円を送金しましたが、まだまだ拡大する火災に対して追加の支援が必要です。
▲泥炭地を含む森林地域が大規模に燃えている
あなたの支援でできること
集まったお金は、3ヶ所での消防活動において、現地協力団体を通じて下記のような費用に充てられます。都度現場の状況を聞き取りながら、優先すべき地域や項目に活用してもらえるよう連携をとります。
- パトロールや火災現場への移動にかかる交通費(車やボートの燃料費)
- 消火のための給水ポンプや消防車を動かすための燃料費
- 消防チームの食費や医療品
- 消防チームの安全装備(安全靴やヘルメット、ゴーグル、マスクなど身を守る装備)
- 消防ホースやジェットシューター(背負式水のう)等の消防備品
- その他現場の状況を踏まえて必要と判断した費用
- 本企画の運営費(寄付総額の10%以内)
燃料費だけでも1ヶ所1日あたり5,000~15,000円程度必要で、食費も含めて出動するだけで1ヶ所あたり1ヶ月間で10~20万円程度必要と予想されます。金額に余裕があれば、安全装備や消防備品を充実させることができます。
※目標金額に達さない場合でも、集まったお金はすべて消防活動に活用します。万が一火災が落ち着き一部のお金が余った場合は、来年以降の消防活動用に繰り越します。
なぜインドネシアで森林火災が起きているのか?
熱帯林火災は100%が人為的な理由で起こっている
インドネシアのボルネオ島やスマトラ島で起こっている火災の原因の多くは、農地開発を目的とした(違法な)火入れを主とする、人為的なものです。乾季のピークを迎える9月頃は、そういった火が広がりやすく・鎮火しにくくなりますが、数年に1回、エルニーニョ現象の影響などで特に乾燥が強く被害が拡大する年があります。
しかし、森林火災がここまで大規模に広がるようになったのは1900年代後半からです。それは、パーム油のためのアブラヤシ農園プランテーションや製紙や木材のための産業用植林プランテーション開発などにより、大規模な熱帯林伐採が進み、土地が乾燥化していることが想定されます。
熱帯林火災と私たちの消費生活とはつながっている
違法伐採、大規模農園、牧畜、鉱山開発…今、世界の熱帯林は急速に破壊されています。かつてボルネオ島を覆っていた豊かな原生林も、その半分以上が失われてしまいました。
パーム油の原料であるアブラヤシを生産するため大規模な農園が必要で、森が丸裸にされ絶滅の危機に瀕する生き物がいたり、地域住民の土地が奪われたりしています。
パーム油は、インスタント麺、スナック菓子、マーガリン、アイスクリーム、チョコレート、洗剤、石鹸、化粧品など私たちの日常生活で多く使われています。
また、産業用植林から作られるトイレットペーパーやティッシュペーパーなどの製紙用品も多く私たちの生活で使われています。
安い商品の大量生産・大量消費が、海の向こうの森・生き物・人々を傷つけていることを意識し、日々の消費生活を見直さなくてはいけません。
森林火災の原因と私たちの消費生活は必ずしも無関係ではありません。大規模な森林火災で多くの生き物の命や人々の生活が失われないしくみづくりが求められています
ウータン・森と生活を考える会について
ウータン・森と生活を考える会は、「森を守りたい」と願う熱い心をもった人々が集まった市民団体です。オランウータンなど 数多くの希少な生きものが棲み、先住民にとっても生きる糧を与えてくれるボルネオ島の自然豊かな熱帯林を、国内外のNGOや現地の村人と共に、減少を食い止め回復し保全する活動や森林減少の要因となっている商品の消費者である私たちの日本での生活を考える活動を、35年間市民の力ですすめてきました。
具体的には、下記のような活動を行っています。
熱帯林の破壊を止めよう!
〜世界各地の仲間との連帯で「森林破壊ゼロ」をめざす〜
熱帯林破壊の原因となる企業活動や政策等に対して、抗議・提言・啓発をしています。現地のNGOや地域住民、国際NGO、ボランティアメンバーとの連携によるキャンペーンやアドボカシーを大切にしてきました。
違法材の輸入や、ポテトチップスから発電まで私たちの日常に溢れるパーム油の使用を見直すために、市民向けの学習会やWEB発信にも力を入れています。
ジャングルを蘇らせよう!
〜”オランウータンの棲める森”を村の人と一緒に取り戻す〜
ボルネオ島で違法伐採や火災により失われた森を取り戻すために、在来種の苗づくりや植林に取り組んでいます。野生動物が棲める豊かな熱帯林の再生はもちろん、森に関する知識の継承も大事な目的です。
森を守る主人公はそこに暮らす村の人たち。私たちは「森づくりは人づくり」をコンセプトに、植林や環境教育を通した次世代の育成にも力を入れています。
自然と共生する村をつくろう!
〜“森を壊す仕事”から“森を守る仕事”へのシフトを促す〜
ボルネオ島のNGOや村人によるエコツーリズムや森林農法・有機農業など、森を守るからこそできる仕事を応援しています。それらは、違法伐採やアブラヤシ農園での労働に代わる現金収入の手だてになるからです。
私たちが毎年開催しているボルネオ島エコツアーでは、村人と日本からの参加者が「自然と共生できる未来」について話し合い、一緒に考えます。
お問合せ先
団体名:ウータン・森と生活を考える会
住所:大阪府大阪市北区中崎西1丁目6-36-308
Website:https://hutangroup.org
※お問合せはできるだけ問合せフォームよりお願いいたします。お急ぎの際はお電話ください。
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