日本重症患者ジェット機搬送ネットワークとは
我が国でも重症呼吸・循環不全に対する集学的治療の進歩は著しく、大動脈バルーンポンピング(IABP)、Extracorporeal Membrane Oxygenator (ECMO)、補助人工心臓(VAD)[経皮的補助人工心臓(IMPELLA)を含む]などの機械的循環補助を含む集学的治療の、救命率や治療後の予後・QOLは著しく向上しました。しかし、このような治療は大都市に限定され、それらの地域以外の重症呼吸・循環不全患者は、高度な専門的治療を受けられないのが、我が国の現状です。特に小児の重症呼吸・循環不全患者において、これらの集学的治療を受けられるのは、さらにごく一部の大都市に限られています。また、新型コロナウイルス感染症の蔓延を経験し、現状のままでは、新興ウイルス感染症が地域で感染拡大するとその地域の医療崩壊を招くことも明らかになりました。
このような現状で、重症呼吸・循環不全患者が国内で公平に医療を受けるためには、人工呼吸器や上述のECMOをはじめとする機械的循環補助を装着した患者を、地域から高度医療施設に空路で搬送するための医療技術を開発するとともに、広域医療搬送を可能にするようなネットワークを構築することが、喫緊の課題と思います。また、引き続いて医療が必要な場合には、紹介元へのback transferまで考えたネットワークを作ることが、患者と家族のQOLを考慮した治療体系であると考えます。
そこでこのたび、重症患者の迅速な搬送・治療に繋げる「救命のための予防線」となるような日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(Japan Critical Care Jet Network:略称JCCN)の設立を目指して、重症患者の治療に関わる医療界関係者が中心になって、法曹界、行政、運航事業者と連携できるような特定非営利活動法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワークを設立いたしました。
なぜ我が国に重症患者をジェット機で搬送するネットワークが必要なのか
わが国の医療提供体制は民間中心の体制であることが特徴であると言われており、国民皆保険制度の下、フリーアクセス制度があるため患者はどの医療機関でも自由に受診することができます。また、これまで民間病院は他国と比べて、病院やクリニックの開業や医療資源の投資が自由であったため、国際的に見て日本は人口当たりの病床数が多く、平均在院日数が長く、1床当たりの医療従事者が少ないのが現状です。
結果として、医療制限投資がマーケットの大きい都市群に集中し、医療資源の偏在化が引き起こされてきました。過疎地では、少数の医療従事者が多くの病床を管理することになり、医師の過酷な労働環境も生じています。また、医師の診療科選択の自由や、勤務医や開業などの勤務形態の選択の自由により、診療科の偏在、勤務医不足の課題も生じています。そのため、行政は、医師や医療資源の偏在化をなくすための施策を積極的に推進し、地方においては、その地域内の医療ネットワークが構築されて有効に機能してきました。
しかし医療がより高度化する中で、その地方医療ネットワークでは人口減少などの影響でこれに十分に対応することができていません。事実、高度医療を必要とする超重症患者を治療できる施設には、専門性の高い医師をはじめとする、莫大な医療資源が必要であり、仮に医師の偏在化が軽減したとしても、専門性の高い医療施設の偏在化を解決することは至難の業であります。
一方、現在、政府はデジタルトランスフォメーション(Digital Transformation:DX)を活用した地方移住を推進していますが、移住者にとっては、地方からの超高度医療に対するアクセスの確保が不安材料となっています。
従って、地域の医療機関では提供できない高度・専門的医療を必要とする患者を、ジェット機などの固定翼機を活用し、医師を含む医療チームによる継続的医療のもと、高度・専門医療機関へ計画的に搬送するため、DXとも連携した重症患者をジェット機で搬送するネットワークを構築することは、喫緊の課題です。
ドクターヘリではなぜダメなのでしょうか
高度な医療機関のない地域でも一定距離から、治療を実施できる病院に搬送するシステムの一つとして、ドクターヘリがあります。日本でもドクターヘリ制度が充実し、すべての都道府県にドクターヘリが配備されるようになりました。
しかし、「事故や急患が発生した際に、一刻も早い治療開始を目的に医師を患者のもとへ運ぶこと」を主目的とするドクターヘリによる患者搬送は、いくつかの課題が指摘されています。
ドクターヘリの課題:
✔︎ 機内での高度な治療はスペースの問題でできない
✔︎ 夜間や悪天候では運行できない
✔︎ 重症な小児患者を都道府県を跨いでPICU等の高度医療機関に搬送することは叶わない。
✔︎ ECMOなどの高重量の医療機器を装着した患者を搬送できない
一方で、ドクタージェットの場合は、こうした課題を解決できる可能性を秘めています。
ドクタージェットなら、できること:
✔︎ 夜間や悪天候でも運行できる可能性が高まる
✔︎ 重症な小児患者を都道府県を跨いでPICUに搬送できる
✔︎ 機内での高度な治療ができる
日本のどこに住んでいても、高度先進医療を受けることができるアクセスを作りたい
国内全域で、地域の医療機関では提供できない高度・専門的医療を必要とする患者を、固定翼機を活用し、医師を含む医療チームによる継続的医療のもと、高度・専門医療機関へ計画的に搬送するための重症患者ジェット機搬送ネットワークを構築したいと考えています。
具体的には、以下のような広域ジェット機搬送を可能にしたいと考えています。
1.超重症患者搬送
従来、我が国では、超重症患者を施設間搬送する場合に、関係施設の自助努力で行ってきました。そのため、搬送中の急変リスクを考慮して、やむなく搬送を断念することがありました。しかし欧米では搬送用ECMO装置の開発などが進み、安全な施設間搬送が可能となって普遍的医療として実践されるようになってきています。しかしながら日本においてはこのようなことはまだ研究段階です。これを実現するために基幹病院から専門スタッフと必要医療器材を携行して、搬送元の病院に出向いてそこで必要な処置を実施して、超高度医療機関に搬送するシステムを整備したいと考えています。
2.集中治療継続患者後方搬送(Intensive care Back Transport)
超高度専門治療により患者の状態が改善して、一般的な集中治療施設、すなわち搬送元の医療機関での治療が可能になった時点で、搬送元の医療機関に再転送して、集中治療を搬送元で継続することも重要です。これによって超高度医療機関のベッド回転率を向上させる事が可能となり、また地元に戻れることにより患者家族の負担の軽減にも繋がると考えられます。
3.災害時活動
大規模災害における災害医療計画の中に広域搬送拠点臨時医療施設(staging care unit:SCU)間の傷病者搬送が明記されています。この主体は自衛隊ですが、初期の活動おいて調整に時間を要することも想定されます。そこで通常から長距離搬送を実施している日本重症患者ジェット機搬送ネットワークを利用して、現地災害対策本部へのリエゾンや災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistant Team:DMAT)の早期派遣と、その後のSCU間の傷病者搬送にDMAT事務局の指示下にこれを活用したいと考えています。これにより、大災害時に多くの人命の救済に貢献できると考えます。
4。帰省搬送 (Repatriation)
都市部から北海道や沖縄など観光地を訪れた際に重篤な疾患や重症外傷に罹患した場合に、患者の居住地(地元)の医療機関に転送することは困難の場合が多いです。また観光地の重症病棟を長期にわたり占有することで地域医療に弊害をもたらしている場合もあります。このような患者を安全に長距離搬送し、地元の医療機関で治療を継続していくシステムも必要であると考えます。
5.臓器移植時の患者・臓器の搬送
死体臓器提供の情報は、臓器提供者(ドナー)の意思の確認、死亡確認(脳死の場合には法的脳死判定)の後、移植施設に連絡され、臓器移植者(レシピエント)の移植を受ける意思を確認してから、臓器を摘出するまで半日程度しかないため、遠方で待機している重症臓器不全患者が短時間で移植施設に到着できないことがあります。また、心臓などの虚血に弱い臓器では虚血時間を極力短くすることが重要です。従って、臓器提供発生時にレシピエントを移植施設まで、移植臓器を移植施設まで広域に固定翼機で搬送する必要があるとかんがえます。
このような搬送ネットワークを構築するために、皆さまからの温かい支援をお待ちしています
NPO法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク
代表 福嶌教偉
ご支援の使い道
国内全域で、地域の医療機関では提供できない高度・専門的医療を必要とする人に対し、固定翼機を活用し、医師を含む医療チームによる継続的医療のもと、高度・専門医療機関へ計画的に搬送するための重症患者固定翼機搬送体制を確立し、運営体制の整備を行い、国民医療の問題解決と救命率向上に寄与するという社会的使命を達成することを目的として、当法人では以下の7つの事業を行いたいと考えています
1.固定翼機を用いた、超重症患者搬送、集中治療継続患者後方搬送、災害時患者搬送、帰省搬送、臓器移植時の患者・臓器の搬送を円滑にするための病院・医療機関のネットワークの組成
2.小児固定翼機搬送試験運航事業
3.固定翼機による患者搬送に関する法的枠組みの研究と推進
4.病院・医療機関、固定翼機運航者、資金給付者の間の合意形成による医療用固定翼機の利用促進
5.医療用固定翼機及び関連施設の仕様・装備、運航等の実用化基準の作成
6.前項の基準を利用した医療用固定翼機による患者搬送の取り扱い基準の作成
7.救命救急活動業務
8. 重症患者搬送に関わる医療チームの仲介及び教育研修
皆さまからのご寄付は、上記の事業の活動費として使用させて頂きます。