アメリカのビザ事情
はじめまして。浅野千尋です。
現在、私はアメリカのボストンでオペラ歌手およびボイストレーナーとして、OPT(Optional Practical Training)で働いています。OPTとは、留学生が大学卒業後に取得できる就業許可プログラムのことです。大学で学んだ専門分野の職業経験を積む機会が最長1年間、提供され、留学生がアメリカでキャリアを構築する手段のひとつとなっています。
私のOPTは2024年8月3日に切れますが、アーティストビザ(O-1ビザ)に切り替えるためには弁護士を雇って政府に申請する必要があります。費用が賄えずアーティストビザの申請ができない場合、アメリカで合法的に働くことはできなくなります。
すでに決まっている舞台
私にはOPTが切れる8月3日以降にも、すでに出演が決まっている舞台がいくつかあります。
6月から8月にかけては、世界的なピアニストの内田光子さんが1999年から芸術監督を務めているマールボロ音楽祭(ニューハンプシャー)へ出演することが決まっています。
また、9月から12月までは、戦前にオレゴン州へ移住した詩人であり芸術家の岩月静江の一生を描くオペラ「Shizue」(世界初演、オレゴン州・ポートランド)でのタイトルロールを控えています。
その他にも、2024/2025年度にはアメリカでいくつかのリサイタルを予定しています。
アーティストビザが取得できなかった場合、オーディションに合格して出演が決定しているにもかかわらず、日本への帰国を余儀なくされ、アメリカでは舞台活動ができなくなります。アーティストビザの取得には日本円にして100万円以上必要です。家賃をはじめ、生活に必要なお金を支払いながら、OPTの1年で貯められる金額ではありません。アメリカにおけるオペラ歌手としてのキャリアを継続させるためアーティストビザを申請するにあたり、皆さまにサポートをお願いする次第です。
欧州でなくアメリカを目指したわけ
私はボストンのニューイングランド音楽院でVocal Pedagogy(音声教育学)の修士課程を修めるため2019年、渡米しました。この学問は、声楽指導の芸術と科学に焦点を当てた学問で、歌の本質や機能、正しい歌唱法を深く追求しています。
音声教育学は日本ではまだなじみの薄い領域です。
具体的には、音声教育の歴史と哲学、解剖学、生理学、音声音響学、音響心理学の知識を習得し、聴覚訓練や運動学習理論を活用して生徒が上達する能力を最大化させる方法などを探求し、理論的背景と実践的スキルの両方を学びます。
日本の音楽大学などでは、音声学を学ぶことができますが、人間の発話器官の構造と機能、音声の物理的な性質を扱う音響音声学の基礎など、音声生成のプロセスに深く関わるもので、私の研究したいこととは少し異なりました。そのため渡米して学ぶことにしました。
大学院を卒業後は、音声教育学を日本でも広めたいという夢を抱きつつ、アメリカでパフォーマンスの機会も得ることができ、ボストンの音楽学校で声楽教師をしながら歌手としての活動を続けています。
数少ない日本人オペラ歌手
アメリカで活動する中でアジア人のオペラ歌手には多く出会いましたが、日本人のオペラ歌手にはまだ出会ったことがありません。卒業したニューイングランド音楽院でも声楽科の生徒の半数がアジア人であるにも関わらず、20年以上もの間、日本出身の声楽科の生徒がいなかったことに驚きました。周囲のアジア圏の歌手たちはそれぞれのコミュニティやコネクションを築いていますが、日本人歌手は非常に少数派と感じられます。
しかし、日本人歌手にも活躍の場はたくさんあります。
可能性に満ちたアメリカ
アメリカで活動していると、『差別されないの?』とよく聞かれますが、私は差別を経験したことがありません。逆にマイノリティに非常に寛容な環境であると感じています。アメリカの音楽業界は多様性と包括性を強調し、マイノリティの芸術家や文化に対して開かれた姿勢を示しています。
特に近年では、日本人やアジア人を題材にした作品において、私たちが積極的に出演し、その才能を発揮する機会が増えています。アジア人をテーマにした新作オペラも多く上演されており、私もいくつか出演させていただきました。
【2022年】
第二次世界大戦中の日系人強制収容所を題材にしたオペラ「An American Dream」(J.ペルタ)のヒロ子=日系アメリカ人家族の母親役を務めました。
【2023年】
「Music Box Bird」(K.ベンジャミン)という作品では、ウグイス役を演じました。この作品では、美しい声で鳴く2羽の輸入された鳥(日本のウグイスとアフリカのホワイダ)を、現代社会でアメリカに住む移民のメタファーとして描いています。このオペラは、制約の多い生い立ちを乗り越え、自分自身を解放するための内なる力を見出す勇気についてのメッセージを伝えています。
そして、2024年
2024年10月にはオレゴン州フッドリバー市の日系人女性の人生を描くオペラ「Shizue」で、シズエ役として出演予定です。主人公・岩月静江は戦前に岡山からフッドリバー市に移住し、さまざまな困難に直面しながら家族で果樹園を経営し、生け花を教え、短歌を作り、コミュニティのリーダーとしても慕われた芸術家です。彼女の歌碑がフッドリバー市歴史博物館の前に建っており、目の前の雄大なコロンビア川に浮かぶ小麦運搬船に託した望郷の想いを、今もそこに刻んでいます。
「朝日さす コロンビア河を 麦積みて 行くタグボート 日本船が見ゆ」
日系の方々が過去に耐え抜いた数々の困難があったからこそ、私は今、アメリカの地で平和と安心の中に生活することができております。この深い感謝の気持ちを胸に、日本人として伝統と文化の独自性を大切にし、その美をオペラという形でアメリカに伝えていきたいです。
アメリカではオーディションのチャンスも舞台のチャンスもたくさんあり、頑張った分だけ仕事ができる国だと思います。世界三大オペラハウスのメトロポリタンオペラもあり、王道のクラシックオペラの他にも毎年沢山の初演オペラが上演され、常に刺激のある環境です。
将来の夢
将来は、日本では上演される機会の少ない新作オペラを持ち帰り、クラシックとはまた違う新たなオペラの魅力を伝えたいと思います。同時に、音声教育学の日本におけるパイオニアとして、日本の声楽教育に新たな視点をもたらしたいと考えています。
また、アメリカに学びにくる後輩たちが心地よく安心してコミュニティを築けるようサポートをするつもりです。
ご寄付の使い途
アーティストビザ取得に必要な移民弁護士依頼費用のうち、自己負担できる30万円を除き、残りの73万円を充てさせていただきます。引き続きアメリカにとどまり、すでに出演が決まっている舞台を全うし、さらにキャリアを積めるよう、どうぞ温かいご支援をお願い致します。
寄付者のみなさまへ
プロフィール
東京出身、米ボストンを拠点に活動しているメゾソプラノ。
東京音楽大学声楽付属高校、東京音楽大学声楽演奏家コース共に首席卒業後、米二ューイングランド音楽院に給費奨学生として合格し、音声教育学/音楽教育学の修士課程、オペラパフォーマンスのグラデュエイトディプロマを修了。
2023年米国メトロポリタンオペラ、ラフォンコンクール、プエルトリコ地区大会優勝。
2023-2024シーズンでは、伝統的なオペラ・レパートリーにとどまらず新作オペラ、新曲初演、アカペラヴォーカルアンサンブルなど、多様な公演に取り組んでいる。
アウトリーチ活動にも力を入れており、「ヘンゼルとグレーテル」ヘンゼル役(ボストンリリックオペラ)、「チェネレントラ」シンデレラ役(ボストンリリックオペラ)などで、アメリカの小中学生に向けてパフォーマンスをしている。ボストンではボストンリリックオペラをはじめボストンオペラコラボレイティブ、ホワイト・スネーク・オペラ、マス・オペラ、NEMPAC、ナイチンゲール・ヴォーカル・アンサンブル、ケンブリッジ・チェンバー・アンサンブル、カペラ・クラウスーラなど、様々なカンパニーに出演している。
音声教育学・音楽教育にも注力し、2020年にはパンアメリカ、ボーカルアソシエーションにて研究発表。声楽をマリアンマルコミック、イアンハウエル、マークリー、秋山隆典、加納里美の各氏に師事。現在、アメリカボストンを拠点に幅広い音楽活動を展開している。
このクラウドファンディング(寄付)の運営について
さわかみオペラ芸術振興財団とは
「日本にオペラ文化を広め、多くの人々に心の贅沢を味わっていただき、それが人生の豊かさにつながっていく」という理念の下、活動を行っている公益財団法人です。2015年に日伊共同制作の野外オペラ公演を開催し、2016年よりイタリアの歌劇場と共に日本各地の文化財を借景に、「Japan Opera Festival(ジャパン・オペラ・フェスティヴァル)」の総称で公演を開催しています。公演活動の他に、若き芸術家への活動支援や教育活動も積極的に行っています。
https://sawakami-opera.org/
音楽家支援制度「みんなの寄付」
さわかみオペラ芸術振興財団では、音楽活動のための助成制度「みんなの寄付」を設けています。皆様から募った寄付金は財団諸経費を除き全額を、支援が必要な音楽家に届けます。また、助成金をすべて寄付金から給付することにより、支援者と音楽家を「寄付」というかたちでつなぎ、多くの人々を巻き込みながら、日本のクラシック音楽の文化発展、振興に寄与することを目的としています。
寄付方法は、特定の音楽活動を指定せず「みんなの寄付全体」に対して支援できる<助成型>と、寄付者の方が興味のある活動を指定し個別に支援できる<個別案件型>があります。
税制上の優遇について
当財団への寄附金は、税法上の特定公益増進法人への寄附金として、個人・法人それぞれに税制上の優遇措置がございます。公式サイト
※詳細は、所轄の税務署又は税理士などへお尋ねください。
- 個人によるご寄附
(1)所得税
控除の方法は《税額控除》と《所得控除》による方法がございます。
《税額控除》 下記算式より算出された額が、「寄附金控除」として、所得税から控除
(年中に支出した公益財団法人等に対する寄附金の合計額-2,000 円)×40%=控除額
※寄附金の合計額は年間所得額の 40%が限度となります。
※控除額は所得税額の 25%が限度となります。
《所得控除》 下記算式より算出された額が「寄附金控除」として、課税所得から控除
(年中に支出した特定寄附金の合計額-2,000 円)×所得税率=控除額
※特定寄附金の合計額は年間所得額の 40%が限度となります。
(2)住民税
一部自治体の個人住民税についても優遇措置の対象となります。
(3)相続税
相続税についても優遇措置の対象となります。 - 法人によるご寄附
当財団への寄附金は、(1)一般の寄附金の損金算入限度額とは別枠で、(2) 特定公益増進法人に対する特別損金算入限度額以内の金額を、損金算入することが認められています。
(1)一般の寄附金にかかる損金算入限度額
(資本金等の額の合計額または出資金の額×0.25%+所得の金額×2.5%)×1/4
(2)特定公益増進法人に対する寄附金にかかる損金算入限度額
(資本金等の額の合計額または出資金の額×0.375%+所得の金額×6.25%)×1/2