私たちが活動はじめるきっかけになったのは、ある一人の男の子との出会いでした。当時、在宅医療で関わっていたしんすけくん。生まれつき重度な障害があり、特別支援学校 高等部に通っていました。彼が高等部3年生になったある日、卒業後の進路についてお母さんに尋ねます。
「彼は卒業したらどこで何をされるんですか?」
進学や就職を機に親元を離れ、一人暮らしやアルバイトを始めるなど、新しい始まりにワクワクとドキドキが入り混じる、それが高校卒業における私たちの中の“あたりまえ”でした。お母さんは少し笑いながら、
「卒業したら行き先なんてないです。考えられる選択肢は二つ。一つは、私と二人で自宅に引きこもって暮らすこと。もう一つは、遠くの病院にこの子を入院させて、家族が離れ離れで暮らすこと。それ以外の過ごし方なんてない。どっちの過ごし方が良いと思います?」
地域には居場所がない・・・
しんすけくんのような重症心身障害児(者)にとってはそれが“あたりまえ”でした。その後、私たちは何かもっと別の選択肢があるのではないか、と彼が病院や家以外に過ごせる場所を探しました。施設へ見学に行き、スタッフを一人貸すので彼を受け入れてくれないかと頼んだこともありました。しかし、制度の壁などが立ちはだかり、受け入れてくれる施設はひとつもありませんでした。解決策が見出せないまま、彼の卒業が刻々と近づきます・・・。
一緒に社会を変えたい
私たちが最終的に出した答えは、彼のために自分たちで地域の中に居場所をつくることでした。これが「オレンジキッズケアラボ」が誕生した瞬間です。「ラボ」という言葉には、彼と彼の家族とともに新たな挑戦をし、そのプロセスを社会に発信することで、一緒に新しい“あたりまえ”を作っていくとの思いを込めました。そして障害当事者と支援者が、利用する-されるという関係を超えて、互いの夢や未来に向かって一緒に行動していく。【こたえていく、かなえていく】。これが私たちの合言葉になりました。
重度な障害や医療ケアを必要とする子どもたち
日本は新生児医療の進歩により、赤ちゃんの死亡率が世界で一番低い国となりました。一方で、様々な障害とともに生きる子どもたちの数は近年、増え続けています。自力では歩くことも話すことも難しい、重い障害をもった子どもたち(重症心身障害児)もいます。医療的ケア児とは、生活する上で人工呼吸器などの医療機器を使ったり、鼻から入れた管や胃瘻で栄養をとったり、日常的に様々な医療ケアが必要な子どもたちの総称です。最近では自力で歩いたり話したりできる医療的ケア児も増えていて、保育や学校教育の現場をはじめ、地域の中でどのように関わっていけるかが問われています。
現状では医療的ケア児や重症心身障害児を地域全体で育てていく仕組みや資源、人材は全国で不足しています。制度に規定されているサービス提供だけでは事業経営が成り立たないことで、地域でこういった子どもたちを受け入れる場所を作ることが難しい、こういった子どもたちと関わった経験をもつ専門職やその育成が不十分である、などの背景があります。そのため母親を中心に家族がケアや介護、サービス利用や調整、行政的な手続きまで全てを抱え込んでいるケースが多くあります。
居場所だけでなく、子どもたちが成長する機会をつくりたい
重度な障害や医療ケアを必要とする子どもたちは、生まれた時から入退院を繰り返すことが多く、行き先で体調が変化したら、普段と違う環境で何かあったら、そんな不安を抱いているご家族も多くいます。そのため、家族で外出する、旅行に行くなど家族で楽しむ時間を持てない、友達と遊ぶ機会が少ないまま過ごしている、という現状があります。
一方で子どもの成長に目を向けると、たくさんの体験と周りの刺激を受けて変化することがたくさんあります。できなかったことができるようになる、興味のなかったことに興味をもつ、そして楽しい、好き、これは苦手といった様々な感情が表出できることなど、体験を通して学ぶことや気づくこともたくさんあります。子どもたちは言葉で伝えることが難しいですが、表情や態度で自分の想いを伝えてくれます。
「障害があるから、医療があるからできない」ということではなく、どう障害と付き合いながら、どう医療を使いながら体験を積み重ねられるか、そういったことを子どもたちや家族と一緒に考えていくことがとても大事だと考えています。
子どもたちの0-1体験を増やしたい
私たちは”初めて体験する” という機会をとても大事にしています。初めての体験はたくさんの感情が動きます。そもそも楽しいのか、楽しくないのか、好きなのか、嫌いなのかも分からないので、体験に向けて準備をしている時、実際に体験する時、どちらにおいてもポジティブな感情とネガティブな感情が混在します。その過程を子ども自身が感じることが大事であり、私たちはその過程を0-1体験(ゼロイチ体験)と呼んでいます。一度体験ができると、またやってみたい、もうやりたくない、今度はこれをしてみたいなど、次の体験につながっていきます。体験が多くなると、過去の体験よりも楽しいか、面白いかといった比較ができます。また過去を踏まえて、これを準備しようなどと想像もできるようになります。子どもたちの初めては成功も失敗も含めて、その後の人生につながっていきます。そのため、小さい時からできるだけたくさんの体験をするべきだと考えています。
子どもたちが社会を変える
これまでケアラボでは、子ども達と一緒にたくさんのチャレンジを積み重ねてきました。
2015 滞在体験「軽井沢キッズケアラボ」開催(以降、2019年まで毎夏開催)
2016 医療的ケア児の普通学級の入学
2018 特別支援学校に常時人工呼吸器を必要とする子どもが福井県で初めて親の付き添いなく通学
2019 医療的ケア児の旅行ガイドラインの作成
家族旅行体験「久米島キッズケアラボ」 開催
家族旅行体験「ディズニーキッズケアラボ」開催
2020 医療的ケア児に関われる看護師育成プログラム「まちキッズナースプロジェクト」開始
2021 富山県立山連邦の一つ雄山(3003m)への登山チャレンジ!
これまで活動を通してたくさんの方々に出会いました。その中には、医療的ケア児のことを初めて知った人、初めて関わった人もたくさんおられます。そして、出会った方々が子ども達を想って起こしたアクションもたくさんあります。できることを、それがほんのちょっとした関わりだったとしても、子どもたちにとってはそれが初めての体験になることや活動がさらに楽しくなることがたくさんありました。そうやって大人が子どもたちのことを想い、アクションを起こす先によりよい未来がつながっていると思います。そのためには、子どもたちもいろんな体験を通して、社会とつながりつづけることが必要です。
みなさんのご支援が未来の社会を変える第一歩につながります。
私たちの想いや活動に共感し、ご支援してくださる方【ケアラボラバー】を募集しています。
いただいたご支援は以下の費用として活用させていただきます。
・子どもたちの創作活動材料費
・外部活動での施設利用費
・医療的ケア児に関する研修参加費
・衛生用品購入費
・スタッフ採用・育成費
子どもたちの成長と未来をつくるために、みなさんのご支援をお願いします。