岐路に立つシリア
世界各地で武力紛争や人道危機が起きるなか、いま私たちが支援を行うことが平和に直結する効果を生むこれ以上ない転機が訪れているのがシリアです。
シリア内戦では旧アサド政権が反対派と見なした北西部を中心に激しい空爆を行い続け、多くの市民が犠牲になりながら、国連や国際社会がそれを止めることができない絶望的な状況が15年近く続いていました。そんななか、昨年12月にアサド政権が崩壊したことで、シリアでの戦争はようやく終結の兆しを見せています。
現在シリアでは暫定政府が立ち上がり、正式な政権への移行期間を5年とした憲法づくりが始まるなど、新しい社会づくりが始まろうとしています。内戦により荒廃した国土、国内の各派閥の間の合意形成、各地で高まる緊張状態などの新たな混乱も生まれており、その道のりは予断を許さない状況です。
アサド政権崩壊後、政府による空爆が止まり恐怖政治が終わったことで、逃れていた難民のうち約30万人が帰国、2025年前半には最大100万人の帰還が見込まれています。国内避難民キャンプから故郷を目指す人々の移動も始まっています。
しかし、国土は荒廃し、経済は疲弊。国民の9割が貧困ライン以下で暮らし、水道や通信も不安定な状態です。暫定政権は全武装勢力の統合を目指していますが、不信感は根強く、アサド旧政権の支持者含めた武装勢力と暫定政権の衝突含め、各地で異なる武装勢力間の衝突も発生しています。
様々な宗教・宗派が混在し「モザイク国家」と呼ばれるシリアでは新たな国づくりは容易ではありません。和平プロセスへの参加を求める市民や女性たちの声も高まっています。
シリアの人々は言います。「再び大国の思惑に振り回されたくはない。だから再建はできるかぎり自分たちの手でした方がいい。でもこのままでは、山積みの課題に対応できないまま、ようやく訪れた平和を手に入れる機会を失ってしまうかもしれない。」
空爆は止まりましたが、崩壊し分断した国で新たな争いが起きるのか、安定した社会づくりに向かうのか、その岐路にシリアの人々は立っています。
今、求められる支援
紛争地のニュースを見て、平和のために打つ手はないのか、できるとしても応急措置だけなのかと、無力感を抱いたことはないでしょうか。
世界の紛争件数は第二次世界大戦後最多の59件に達し、約1億2千万人が住む土地を追われ、避難を強いられています。その40%以上が18歳未満の子どもたちです。
私たちは毎日のようにニュースで戦争の報道を目にします。最新の武器システム、ドローン攻撃、空爆による犠牲について詳しく知らされます。しかし、平和がどのように築かれるのかはニュースにならず、ほとんど知る機会がありません。
平和をつくる方法を知る機会がないため、私たちは戦争を目にしても「どうしようもない」と感じてしまいがちです。しかし実際には、平和のために効果があると分かっていながら手つかずの取り組みがあります。
それは、「市民の手で和平プロセスと平和づくりを行う」ということです。
市民が自分たちの力で平和な社会をつくるために
和平プロセスに参画する人たちは、草の根レベルの市民の声を確実に届けることができること、そして個人の名誉のためではなく紛争解決や平和づくりを心の底から必要だと信じていることが重要です。
REALsは2015年にトルコでのシリア難民支援、そして2019年にシリア国内のアレッポやイドリブでの活動を開始しました。
武装勢力や周辺国の動きを見ながら、緊急支援に加えて、将来的に平和を築くための土台作りがシリアで必ず必要になると考え、シリアの人々自身が復興と平和構築の担い手となるための取り組みを進めてきました。
自らの住むコミュニティの紛争解決と平和づくりを担う人々を実際に紛争を経験した被害者、避難民やスラムなどの住民から選出し、育成しています。
そうすることで、戦争や対立の際にあおられずに現実的な解決策を考えることができるコミュニティづくりの基盤ができます。さらに、紛争解決や平和づくり、共存に必要なスキルや経験を兼ね備えた人々が和平に貢献できるようになるのです。
REALsはこれまでの活動で、援助機関が撤退せざるを得なかった地域でも、現地の人々と協働することで平和的な共存を実現してきました。
シリアで政府や国連による取り組みが機能しなくなってきている今こそ、新たな平和の可能性を実行する必要があります。そのために、このプロジェクトでは、分断された社会で人々が自ら信頼を築き、「現実的な解決策」をともにつくる取り組みを行います。
プロジェクトで目指すこと
本プロジェクトでは、内戦下からREALsとともに活動してきた若者や女性、市民団体の代表を含めた現地の人々の平和構築に必要な専門知識とスキルを強化し、市民自らが平和を築くリーダーとなる環境を整えます。
彼ら・彼女らが仲介役となり、地域の争いや暴力を未然に防ぐしくみづくり、市民のニーズを踏まえた平和構築の施策を政治的な意思決定に反映するための道筋をつくり、持続可能な平和の基盤を築くことを目指します。
シリアの人々は、受け身で平和を待っているのではなく、すでに自らできうる行動を起こしています。しかし、その努力を実らせ、分断を越えるために必要な支援があります。
REALsは、これまで培ってきた平和構築の専門知識と実戦経験を活かし、シリアの人々が持つ意志を具体的な変化へとつなげる取りくみを以下の3つの柱を軸に行い、具体的な成果を生み出します。
1.「平和の担い手」の育成
コミュニティの若者や女性、市民団体の代表らを対象に、以下の専門研修を実施し、地域の争いや分断を克服するための橋渡し役となる人材を育成します。
・実践的な対話・調停・信頼醸成・紛争解決スキルの養成
・争い・分断・暴力の予兆の早期発見と早期対応の専門研修
・トラウマを体験したり敵対心を感じる相手との関係構築に必要な心理社会的サポート研修
2.地域での平和構築活動の実践
育成された人材が中心となり、以下の活動を展開します。
・地域内の争いや暴力の予兆を早期発見し、未然に防ぐ巡回活動の実施
・地域の治安関係者、行政、市民団体とのネットワーク構築・連携のしくみづくり
・トラウマの影響を受ける人々への心のケア
3.コミュニティレベルの信頼醸成
地域の市民・ユース・女性団体と連携し、多様な立場の人々が参加する対話の場を設けます。
・平和構築、紛争解決、心理社会的サポート、信頼醸成を市民が日常で実践できる形にしたコミュニティ啓発・教育
・異なる立場の市民が平和と共存について対話し相互理解を深める信頼醸成会議の開催
・市民主体の信頼醸成会議での発見や成果、暫定政府や国際社会への提言、市民主体で実践可能なアクションについての行動計画を策定
この行動計画は、単なる提言にとどまらず、市民自身が実践できる「平和構築のロードマップ」となります。さらに、このロードマップを基にして次のプロジェクトへと発展させ、シリア内をつなぐ共存ネットワークを構築し、地域団体が主体的に平和活動を実施し、分断を超えた共同行動を推進するための基盤を確立します。
寄付金について
本ページからのご寄付はシリアでの活動の事業費や管理費に大切に使わせていただきます。
※支援状況やニーズ、現地の政情の変化などにより、当初の計画を変更、中止せざる得ない場合には、REALsのその他事業のためにご寄付を使用させていただくことがございます。
寄附金控除について
認定NPO法人であるREALsへのご寄付は、寄付金控除の対象となり、ご寄付の最大5割が還付されます。REALsが発行する寄付金受領証明書(領収書)を、確定申告の際にご提出ください。REALsでは年に1度、1月末頃に前年分の領収書を発行しております。詳しくはこちら
REALs(リアルズ)について
命を守り、つなぐ。争いを防ぎ、人と人が共存できる社会に。
REALsは紛争下で危機にある命をつなぎ、平和をつくる活動に取り組む認定NPO法人です。1999年の設立以来16カ国での活動を通じ、紛争やテロなどの争いを防ぎ、人と人が共存できる社会の実現を目指しています。現在はシリア、ガザ、アフガニスタン、トルコ、南スーダン、ケニアで活動しています。
現地に紛争解決の担い手を育成、争い予防のしくみづくり、民族や宗教などが異なる集団間が協働するネットワークを構築。これにより紛争地の人々が自ら解決策を見出し対応する環境を整え、持続可能な平和の基盤を創出しています。