ある生徒との出会い
私たちが、発達障がいの講演会を実施するきっかけとなった生徒がいます。
彼女の名前は「ゆいの」さんです。
彼女はADHD(注意欠如・多動性障害)を抱え、中学卒業までの間、親・先生などの周りの大人から理解されずに苦しんでいました。
発達障がいが今ほど浸透しておらず、彼女自身もその当時は正式な診断をされていませんでした。それが原因で、学校では「変な子」というレッテルを貼られ、周囲から浮いてしまっていました。
そのような状況に耐えかねて保健室に逃げ込んだことも一度や二度ではなかったそうです。しかし、当時の担任の先生から
「保健室はあなたの遊び場ではない」
「周りの子と同じように頑張ることはできないの?」
と言われたことがきっかけで、学校の中での唯一の安全基地を失ってしまいます。
そのような状況の中、母親からの期待に応えようと頑張っていましたが、親が期待するような結果を中々出すことができませんでした。また、周りと馴染むことができないために、学校から保護者へと連絡がいくことも少なくなかったそうです。その結果、母親はストレスを溜め込むようになり、そのはけ口は「ゆいの」さんでした。母親から暴力を振るわれるようになったのです。
それでも母親が大好きだったため期待に応えようと必死で頑張った「ゆいの」さん。「ゆいの」さんは当時のことを振り返って、
「まわりには誰も相談できる人がおらず、常に孤独を感じていた。 本当は母に相談したかった。 でも、どうせ「ゆいの」が悪いんでしょと言われてしまうため、 どんどん相談できなくなってしまった。」
と話してくれました。
だれからも理解されない状況下で無理をしすぎたのだと思います。
「ゆいの」さんの心はむしばまれ続けた結果、自分自身を傷つけるようになります。
習慣的にリストカットをするようになりました。睡眠薬を大量に飲んでみたこともあるそうです。生きることに希望を持てず、どのように死ぬか…を毎日考えていたようです。
私たちが「ゆいの」さんと出会ったのは、そんなときでした。
『適切に支えることで変われる』
「ようやく私のことを本当に理解してくれる大人に会えた。 今までどこでもだれからも理解されないことがほとんどだったから、嬉しかった。 わかってくれる大人にたまたま会えて、私はラッキーだった。」
私たちとの出会った頃のことを思い返し、「ゆいの」さんはこう語ります。
こうして「偶然」出会えた「ゆいの」さんと私たち。私たちとの交流の中で、「ゆいの」さんは少しずつ変わっていきます。最初は自己肯定感が極端に低く、毎日死ぬことばかりを考えていた「ゆいの」さん。心から信頼できる大人と一緒に一つひとつ身の回りの問題を解決していく過程で、徐々に生きる希望を見出していきます。
現在は今までの経験を活かして弱者の気持ちがわかるカウンセラーになりたいと考え、白百合女子大学で公認心理師を目指して心理学を専攻しています。
また、「ゆいの」さんは自分の経験を多くの人に知ってもらいたいと願うようになります。その根底にあるのは、自分の体験談を語ることで、発達障がいに対する社会の理解を広げていきたい。少しでも多くの子どもたちの役に立ちたい。自分と同じような支援の狭間で苦しんでいる子を1人でも笑顔にしたいと思ったからです。
『学習障がいについての講演会』
このような「ゆいの」さんの思いに後押しされる形で、2022年に『学習障がいについての講演会』が神奈川県(日本)でスタートいたしました。2023年8月には、神奈川県相模原市の市長である本村 賢太郎氏にもご参加いただくなど、その活動は年々大きくなっております。2024年度は神奈川県相模原市の公立小学校にて勉強会・講演会を実施しています。現在、延べ1,000人以上の方にセミナーにご参加いただき、その数は今も増えて続けています。
講演会に参加した人からは、
「感情移入してしまい、涙が止まりませんでした。」
「親の私が自分の価値観を子どもに押し付けていることに気がつきました」
などの貴重なお言葉を多数いただいております。
2024年3月には、在米日本人からのご要望もあり、
シアトル・ポートランドの2会場でアメリカ初の講演会を実施しました。
このセミナーには70名以上の在米日本人の方にご参加いただきました。
この講演会でも「ゆいの」さんの赤裸々な体験談が、多くの人の感動を呼びました。
「初めてのアメリカでの講演会でとても緊張したけれども、やってよかった。
来年も機会があれば、ぜひアメリカで講演会を実施したい」
と、「ゆいの」さんは語ります。このような「ゆいの」さんの言葉を受け、すがもでは「ゆいの」さんの希望を実現するために2025年3月にシアトル・ポートランド周辺で発達障がいの講演会を実施したいと考えております。また、せっかく実施するのであれば、規模を拡大してより多くの在米日本人に「ゆいの」さんの声を届けたいと考えております。そして、発達障がいで苦しんでいる方はもちろんのこと、診断はされていないものの、凸凹の特徴を持ち(グレーゾーン)苦しんでいる子どもたちを社会としてどのように支えていくべきか伝えていけたらと考えております。
発達障がいの困りごとを身近なものに
「ゆいの」さんと一緒に講演活動をしていく中で、ある大切な人たちとお会いしました。それが、大橋美穂さん・美沙さん親子です。
大橋美穂さんは、早くから「ゆいの」さんの講演会に理解を示してくださり、発達障がいを抱える美沙さんの子育てのご経験を、講演会の中で何度もお話しいただきました。講演会がこんなに長く続けられているのも、美穂さんのご協力があったからこそです。
2000年生まれ、相模原市緑区在住の美沙さんは、幼少のころから何となくまわりとテンポがずれた子だったそうです。学習障害(読む・書く・計算するなど、特定の分野に困難が生じる発達障害)があり小学校に入学後は、漢字がうまく読み書きできない、授業中にぼーっとしてしまうなどの状況から、小学4年生から療育(発達支援)を受けていました。
「なぜ、友だちよりもたくさん練習しているのに、漢字テストで20点しか取れないのだろう」
「なぜ、文章もすらすらと理解することができないのだろう」「なぜ、私はできないことがたくさんあるのだろう…」
…などと、苦しんできたそうです。一生懸命言葉で何か伝えようとしても頭の中がうまくまとまらず、思っていたことと違うことを言ってしまうことも多々ありました。言葉で何かを伝えるのが苦手な美沙さんは、一人で辛い思いを溜め込むこともあったようです。
そんな美沙さんには、大きな才能がありました。それが、「絵」でした。 言葉で何かを伝えるのが苦手な美沙さんは、絵で言葉以上に物事を伝えるギフトを持っています。
高校2年生の時に美術の課題で、小学生の頃の体験をもとに描いた絵本『かなわね』を制作します。この本は、後に母である美穂さんにより自費出版されます。
横浜美術大学で美術を専攻した美沙さん。同時期に、大学1年生の時にASDと軽度知的障害 という診断を受けます。そして、パラリンアーティストにも登録し、アーティスト活動を本格的に始動します。2022年パラリンアート世界大会(障がい者アートのワールドカップ)で準グランプリ受賞しました。
現在は町田市、横浜市の絵画教室講師として勤務しています。そこでは、子どもたちに絵の楽しさを伝える活動をしています。
「美沙ってなんで頭が悪いんだろう」
「友達とノートを取り替えたら頭良くなるかな」
と、自分のできない部分に目を向け落ち込んでいた美沙さんは学習障がいという凸凹を受け入れ、自身の強みである「絵」で彼女の周りの人を笑顔にし続けています。
アートを通じて発達障がいを身近なものに
「ゆいの」さんのリアルな体験談を、講演活動を通じてをより多くの人に届けるのは私たちのミッションの一つです。講演活動は発達障がいや凸凹について考える良い機会です。確かに、「ゆいの」さんのお話はその場にいる人々の心を揺り動かす力があります。しかし、講演会をするだけでは大切なことを忘れてしまいがちです。
苦しんでいる子どもに対する社会の認識を変えていくには、私たちが常にその問題について気に掛けていく必要があると考えています。常日頃から気に留めているからこそ、本当に困っている人の声なき声に反応できます。そういった人が増えれば、社会はより凸凹のある子にとって優しいものになると信じています。
気づき寄り添って、一緒に考えること
私たち大人にできること発達障害という言葉を耳にすることが多くなりました。専門医を受診し発達障害と診断されると様々な公的支援を受けられるようになります。
診断は複数の項目「日常生活能力の判定と程度、感覚過敏や通院、服薬状況」など、全て条件に合致していることが原則となります。言い換えれば、これらの一部に適応が困難なことがあったとしても現在の社会では支援や配慮を受けられることはほとんどありません。繰り返しになりますが、全部に困難が認められない限り公的には誰も助けてくれない可能性が高いということです。
また、保護者の中には「障害」という言葉を嫌い、気になる兆候があっても受診をさせない場合もあります。本当に問題なのは周りの理解がないために「困っている」と言い出せない子どもが、自己肯定感を失い、更には誰も信じられず自暴自棄になり、生きる望みすら失ってしまうことです。
厚生労働省の発表では10~39歳までの死因の上位は自殺で、年間8,000人(1日平均約22人)を超える若い命が自殺によって失われています。
周りの理解がないと「困っている」と言い出せなくなるのは、例えると目が悪いのに教室の一番後ろの席に座らされて黒板を
「よく見なさい!」
「キチンと見なさい!」
「なぜ見ないの?」
と言われることと同じです。毎日のように言われ続けたら、きっと子どもは嫌な気持ちになるでしょうね。視力と同じように発達に関する問題は本人だけでは解決できません。周りが気づき寄り添って一緒に考えることが大切だと思います。
活動への温かいご支援をお願いします。
発達障害?と、思われるものの、医師の診断まで至らない子どもが隙間で取り残されて苦しんでいます。しかも、この子どもたちは支援をうけることもできずに、二次障害として引きこもり、不登校などを引き起こす可能性があります。周りの人たちに「困っているのに取り残されてしまっている子ども」の存在を知っていただき、その子に寄り添い、支援することで救われます。私たちは、そのような子どもを大勢見てきました。でも、それはほんの一握りの子どもです。
お子様をお持ちの方だけでなく、教育現場で実際に子どもたちと接しておられる方、同僚や部下との対応で違和感をお持ちの方など、たくさんの方のご参加をいただいております。
2022年5月からスタートした「学習困難児研究会」。2023年は定例の研究会のほかに、8月には相模原市長(本村賢太郎氏)にもご参加いただき、2024年3月には米国ワシントン州シアトルやオレゴン州ポートランドでも研究会を実施し、日本だけでなく海外でも多くの保護者の方々にご参加いただきました。2024年現在も、より多くの方にご参加いただき相模原市中心に講演会を実施しています。
先にも書かせていただきましたが、診断を受けられていない子どもたちへの支援活動のため、この活動に対する行政の支援は全くありません。
各種団体や任意団体様、ご賛同いただける企業様や個人の方々からの寄付金等で運営費を賄っております。大変恐縮ではございますが、趣旨をご理解いただき、ご支援いただけることお願い申し上げます。
活動内容
相模原市・相模原市教育委員会・相模原市福祉協議会からご後援をいただき、「学習困難児研究会」として相模原市内を中心に講演会を実施してきました。
それ以外にも、メールや電話、面談による無料での進学相談や学習相談、臨床心理士による専門的なカウンセリング、ご家族が希望される場合には、学校を含む行政機関との橋渡しや連携などをはじめ、講演会以外にも様々な活動をしております。
昨年からは、インクルーシブ教育では日本よりも先を行っている、米国ワシントン州シアトルやオレゴン州ポートランドでも、現地に住む日系人の方々からのご依頼があり、講演会を開催することになりました。日本の相模原市から海外へと開催地域が徐々に拡大を始めています。
いただいたご寄付の使い道
「困っているのに現状では気づいてもらえない子どもたち」や保護者を二次障害を併発する前の早期に発見、支援するための各種活動費用や、それを取り巻く社会の理解を得るための講演会など啓発活動、そして発達障がいで苦しんでいる子どもたちの未来を応援するための資金として、安定的な活動・支援・応援を実施するために、大切に使わせていただきます。
2023年度の支援金
1,141,800円
グループ会社内の支援金750,800円含む
皆様からのたくさんのご支援
ありがとうございました。
美沙さんとゆいのさんを応援するクラウドファンディング
学習障がいを抱える若きアーティスト美沙さんの絵は、見るものを釘付けにする不思議な力があります。パークホテルの客室のデザインなど日本では多方面で活躍されていますが、将来的には世界に羽ばたく絵の才能の持ち主です。そんな「美沙」さんの「絵」と「ゆいの」さんの「言葉」を組み合わせた世界で初のオリジナルのカレンダーを作ることで、ふとした瞬間に発達障がいを意識することができるのではないかと考えました。そして、「クラウドファンディング」を通じて、発達障がいにも負けずに前を向いて歩んでいる2人の若者を応援したいそれが、すがもの願いです。
是非、2人を応援するクラウドファンディングにご協力お願いいたします。
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