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いわき市で今年の海の日に行われた汚染水放出反対集会での筆者
(民の声新聞,鈴木博喜氏撮影)
高木仁三郎市民科学基金 理事 鈴木 譲
ともすれば御用学者の巣窟と見られかねない東京大学の教授だった私が,定年退職の前年から高木仁三郎市民科学基金に関わるようになったのは,自宅近くに計画された道路建設事業の環境影響評価書のあまりにずさんさに腹を立てて反対運動にのめり込む中で市民科学の重要性を実感したことによるものでした.
退職後は,専門の魚類免疫学の知識を活かして福島の放射能汚染地帯に棲む魚の健康状態を調べ始めましたが,被災した方々の話を聞く機会も多く,「市民の不安を共有する」という高木仁三郎さんの考える市民科学の大切さをさらに実感することとなりました.高木さんには到底及びませんが,遅ればせながら市民科学者として生きていきたいと思っているところです.
福島では多くの方々,団体が活動していますが,何件かの調査研究に高木基金から助成し,直接議論しながら進めていただくことができたのは大きな喜びです.中でもNPO法人いわき放射能市民測定室たらちねは,市民団体としては唯一,トリチウムなどのベータ線核種を測定するための施設を充実させて,ついに始まった汚染水海洋放出の現場での海洋調査を行なっています.私もたらちねの海洋調査に毎回参加させていただき,採捕した魚の異常の有無を調べています.たらちねのメンバーは,「原発事故前は普通のおかあさんたちだったんですよ」と言いながらここまでやっているのです.市民科学の可能性の大きさを感じています.
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たらちねの海洋調査の船から見た福島第一原発
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ゆれる船上で直ちに採血し,分析用のサンプルにする
高木基金はプロアマを問わず,世の中の理不尽に対して科学の力で闘っている人たち,団体に調査研究費の助成というかたちで支援しています.その原資はすべて市民の皆様からの寄付金です.このクラウドランディングにお寄せいただいた資金は2023年度の助成に充てられます.応募があった案件の中から,専門分野の異なる役員一同が鋭意審査に当たって有意義な調査研究を支援して行くことで,寄付者の皆様の負託に応えていきたいと思っています.たとえ小さな芽であっても市民科学として大きく発展させるお手伝いができれば何よりです.
どうぞ,よろしくご協力のほど,お願いいたします.