玉山さんは、兵庫県の丹波篠山市で有機農業に取り組んでいる方ですが、過去にはアメリカでのウラン採掘による先住民コミュニティへの被害について、高木基金の助成を受けて調査研究に取り組んだ経験もお持ちです。また、地元の丹波篠山市の「原子力災害対策検討委員会」の委員を務め、安定ヨウ素剤の事前配布の実現に尽力されました。
玉山ともよさんの過去の助成研究の情報は、以下の通り、高木基金のウェブサイトでご覧いただけます。
・2010年の研修奨励助成 「米国南西部におけるウラン鉱山をめぐる環境正義運動
【研修先:アメリカ サウスウエスト研究情報センター】」
http://www.takagifund.org/archives2/detail.php?id=159
・2011年の調査研究「米国ニューメキシコ州文化財として認定されたテーラー山における
「ロカ・ホンダ」ウラン鉱山開発問題」
http://www.takagifund.org/archives2/detail.php?id=349
選考委員 玉山ともよさんからのメッセージ
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私は選考委員の中でも数少ない市民委員の一人です。学者の先生方が選考委員になることが多く、助成金応募も学術研究と密接に絡み合っている案件も多い中で、一般市民の目線から応援したい調査研究に一票を入れるということに、とてもやりがいを感じています。しかし一方で、助成金の全体総額が、私が応援したい案件に比して少なすぎる! そのためこれを入れればこれを落とさざるをえない、そういうジレンマにいつもかられながら申請書を読んでいます。
振り返れば、私は大学院生のときに、二度、高木基金の助成金にお世話になりました。当時、米国先住民保留地の中にあるウラン鉱山採掘による被ばくの問題を研究しており、9才、5才、2才の3人の子どもの子育て中で、大学から私のフィールドワークにかかる渡航費は出ても子ども達の分までは当然出ない。かといって有機農業を営んでいる夫はそれに精一杯で、預けて日本に置いていくわけには行かず、子連れフィールドワークを可能にするにはどうしても助成金の力が必要でした。
高木基金の助成金は、よく言えば柔軟性が高い、悪く言えば「思い先行型」とでも言うのでしょうか。どうしてもこのテーマに向き合って、今、必ずこれに取り組まなければ、社会にとって損失ではないかというような案件、申請者の方々に授与されます。私はまさにそのような、今、思えば熱意しかなかった、調査研究計画としては無謀であったにもかかわらず応援していただき、高木基金は私を救ってくれたと思います。
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2011年の福島原発事故前までは、「原子力ルネッサンス」という、世界的に原子力をイケイケどんどんで進めていこうという機運に溢れていました。それに対して原発でも核兵器でもその原料となるウランの採掘現場は、閉山となった後も十分に除染がされず、近隣で健康被害が続いていました。米国南西部のナバホネーションやラグナ・プエブロ先住民等が、いかに被ばくや重金属、地下水汚染で苦しんでいるか。未除染のウラン採掘跡は、米国西部に現在も1万カ所以上あります。したがって、福島原発事故後に噴出した数々の問題に直面して、とても他人事とは思えませんでした。というのは一旦放射能汚染された土地は、一向に除染されずに放置され、被ばく被害が長期にわたり無視されるだろうと思ったからです。調査研究には先見性が大切だと思います。先を見越して社会をデザインするような力、着眼点のあるテーマに高木基金はかけてきました。お金をかけてきたのと同時に、人材育成に力を注いできました。
実は私は、情けないことにそのときの研究成果を未だにまとめられておりません。帰国後、結局、農家になってしまったからです。しかしあの時のフィールドワークの経験がなければ、アカデミックで落ちこぼれた私が、今、一市民の経験から選考する機会を与えていただいているというようなことになりません。暮らしや農業、子育てといった別の視点、生活者の目線を得ました。それだからこそ多様な応募がとても有難く、これからも元気な、熱い思いをもった申請をお待ちしています。申請書は美しく学術の言葉で溢れたきれいに書かれたものよりも、暮らしに根差した泥臭いテーマや、これを選ばなければという必然性がみえる応募が私は好きです。よって1件でも多くそのような申請を助成するためにも、どうか高木基金を皆様のお力で何とか支えていただきたいのです。ご寄付はわずかからでも、参加することに意義があります。どうぞよろしくお願いいたします。
※ 事務局追記:玉山さんから、「もし良かったら、ご希望の寄付者の方にお礼に野菜セットを送ります。5セットぐらい可能です」とのお話がありました。クラウドファンディングが終了したところで事務局から、大口の寄付をくださった方に、個別にご連絡いたします。
写真(上):当時の写真、私と長女の後ろが1982年に閉山したラグナ・プエブロ先住民保留地内のジャックパイルウラン鉱山です。
写真(下):1979年7月16日に、ナバホ先住民保留地東部のチャーチロックウラン製錬所の鉱さい地ダム決壊事故が起こり、その事故や被害を忘れないように、毎年地元住民等が行っているイベント時の写真です。ちなみに同年3月28日にスリーマイル原発事故が起こっていたことから、辺境の先住民保留地での放射能事故は長らく忘れられていました。