活動・団体の紹介
タイガーマスク運動をブームで終わらせないために
2010年のクリスマスに、漫画「タイガーマスク」の主人公の「伊達直人」の名で、10個のランドセルが群馬県内の児童相談所に届くというニュースが報道されました。善意の輪は、日本全国に拡がり、各地の児童福祉施設にアニメヒーローの名前で贈り物が届くようになり、それは「タイガーマスク運動」と呼ばれる社会現象にまで発展しました。
2011年、漫画「タイガーマスク」の原作者である「故・梶原一騎先生」の奥様である「高森篤子さん」が、この動きを一時のブームで終わらせてはならないと、私財を投じて設立したのがタイガーマスク基金の始まりです。漫画家の「故・辻なおき先生」のご家族や「講談社」様の協力を得て、伊達直人とタイガーマスクの顔をロゴマークとして使用できる唯一の団体として、児童養護施設等で暮らす子どもたちの「育ち」と「巣立ち」を応援しています。
活動の背景、社会課題について
4万2千人の家族と離れて暮らす子どもたち
乳児院や児童養護施設、自立援助ホーム、里親家庭といった「社会的養護」の下で暮らす子どもたちの数は約4万2千人。その多くが家庭内での虐待やネグレクトを経験していると言われています。日本国内の児童虐待の相談対応件数は、毎年増加を続けており、2022年の相談対応件数は21万9,170件と、10年前と比べるとおよそ3倍になっています。(令和4年度「こども家庭庁」児童相談所における児童虐待相談対応件数より)
家族と離れ施設で暮らし、施設を出ても頼れる大人がいない
経済的事情や虐待などを理由に親元を離れ、社会的養護の下で暮らす子どもたちの多くは高校卒業と同時に施設や里親家庭を離れ、一人暮らしを強いられます。しかし、10代後半から20代の若者が、たった一人で社会に巣立つことは極めて困難で、生活苦に陥るケースが後を絶ちません。経済的困窮を抱えていても頼れる大人がおらず、虐待を経験したことによる心身の不調などから、退学や離職に追い込まれてしまうことも珍しくないのが現状です。
5人に1人が赤字生活
厚生労働省が2020年度に初めて、児童養護施設の退所者2万690人を対象に実施した調査によると、5人に1人は、施設を出た後、収入より支出が多い「赤字」の生活をしていることが判明。「現在困っていることや不安なこと」を複数回答で尋ねたところ、「生活費や学費」が33.6%で最も多く、「将来のこと」「仕事のこと」が続き、薄氷を踏むような生活実態が明らかになりました。
活動内容の詳細、実績について
働きながら大学に通う児童養護施設出身学生の進学支援
「こども家庭庁」が2024年4月に公開した資料によると、全高卒者の57%が大学等に進学している現在、児童養護施設の子どもたちの進学率は20.9%にすぎません。学費を用意してくれる家族もいないため、学力があっても経済的事情で進学を断念している子どもたちが多くいます。大学が全てではありませんが、後ろ盾のない子どもたちにとって教育は一生の財産となります。「大卒資格」や「専門分野の学び」は、将来の選択肢を増やし、安定した雇用や生涯年収の増加のために必要な経歴となります。
NPO法人タイガーマスク基金は、働きながら大学に通う児童養護施設や自立援助ホームなどの出身学生に返済不要の支援金を届けています。多くの皆さまのご協力により、2012年からこれまでに、のべ1382名の学生に総額1億895万円の支援金を届けることができています。
支援金は返済不要で使途を学費に限定していないため、教材やパソコン、スマホの購入費、実習や就職活動でアルバイトができない時に助けられたという声が多く寄せられています。
「子ども虐待防止の啓発活動」や「セミナー開催」
タイガーマスク基金では、施設を出た子どもたちに社会で活躍してもらおうと、大学進学支援という『川下』の支援をしています。しかし、そもそもは児童虐待がなければ、多くの子どもたちは施設で暮らす必要がありませんでした。虐待に追い込まれる親をなくすために、『川上』の支援こそ大切と考え、子ども虐待防止の啓発活動にも力を入れています。
ホームページやSNSなどの広報活動はもちろん、一般の方々を対象に、虐待の背景や社会的養護の現状、子ども権利擁護について専門家をお招きし、セミナーや勉強会を開催。児童福祉に携わる方々だけでなく、社会人や学生の方々も参加され、子どもの未来を守るために毎回熱い議論が交わされています。
代表者メッセージ
こどもの最善の利益のために
2024年2月、初代・代表理事 安藤哲也からバトンタッチし、代表理事をさせていただくことになりました髙祖常子と申します。社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。社会的養護は、「こどもの最善の利益のために」と「社会全体でこどもを育む」を理念として行われています。(こども家庭庁HPより)
私自身、子どもへの虐待をなくしたいという想いを中心に10年以上にわたって活動してきました。2018年には東京都目黒区で5歳の女の子の、2019年には千葉県野田市で10歳の女の子がひどい虐待死が起こり、署名活動なども行わせていただきました。皆さまのご協力もあり、2020年には「体罰禁止の法制化」がスタートしました。ただ、皆さまもご承知の通り、虐待はなかなか減っていません。出生数が毎年減り続ける中、児童相談所「虐待相談」対応件数が増え続けているのが現状です。
社会的養護の中で育てられている子どもたちは約4万2千人で、その数は減っていません。様々な事情で家族と離れて育つ子どもたちの中には、親元に置いておくと危険があるということで保護されるケースもあります。虐待を受けた子どもらを預かる児童相談所の一時保護所は地域によって満杯になっているとも聞いています。
タイガーマスク基金は児童養護施設などの社会的養護の下で暮らす&巣立つ子ども・若者への支援を行うとともに、子ども虐待がない社会を目指して啓発活動も行っています。どこに生まれても、どこで育っても、子どもたち一人一人が尊重され、将来の夢を描いていかれるよう、応援し続けていきたいと思っています。ぜひ皆さまのお力をお貸しください。
寄付金の使い道について
ご寄付は主に働きながら大学に通う児童養護施設出身の学生への進学支援事業に充てさせていただいております。皆さまのあたたかいお気持ちを、可能な限り学生たちにそのまま届けるべく、2022年12月~2023年11月の会計年度においては、寄付金の87.7%は学生たちの支援金に充当させました。
その他、社会的養護に関する普及啓発事業、社会的養護に関する調査研究事業、セミナー開催事業、目的を同じくする他団体との連携事業に役立たせていただいております。また、タイガーマスク基金の賛助会員の方からの年会費は、基金の運営費に充当させていただいております。