「子どもが生まれてから旅行をしたことがない」――医療的ケア児の外出の難しさ
生きていくのに痰の吸引や人工呼吸器などを必要とする「医療的ケア児」は増加傾向にあり、全国に約2万人いるといわれています。
医療的ケア児は医療機器を載せられる大きな車いすに乗っていたり、電源の確保が必要だったりするため、長時間の移動や旅行には大きなハードルがあるのが実状です。

旅行のニーズはある一方で、実際に旅行に出かけるには宿泊施設の設備や周辺環境、旅先の飲食店や観光スポットのアクセシビリティ情報など事前に調べる事項も多く、医療的ケア児家庭の中には、「(医療的ケアが必要な)子どもが生まれてから旅行をしたことがない」という方も珍しくありません。
だからといって、旅行に行きたくないのかといえば、そうではありません。
2020年に医療的ケア児のご家族を対象に行われたアンケート調査によると、回答者の96.8%もの方が、家族一緒に外出や旅行をしたいと回答しています。

一方で、外出や旅行を行いたい人のうち、「問題なく行えている」と回答したのは17.2%に留まります。

Try Angleでは、こうした旅行や外出のハードルをできるだけ解消していくため、旅行の実現に向けてガイドラインをつくり、医療的ケア児のご家族からの相談に乗ったり、宿泊事業者向けに環境整備のお手伝いや試泊の取り組みを行なってきました。

社会全体でも、バリアフリーやインクルージョンの考え方が浸透してきたこともあり、バリアフリー情報をまとめるサイト等は少しずつ増えています。
ただ「医療的ケア児」と一言で表しても、必要なケアの内容はお子さんにより異なり、ニーズは様々です。
医療機器の利用有無、経管栄養や胃ろうなどの食事方法、痰の吸引など必要なケアの頻度など、段差を排除した「バリアフリー」だけを考慮すればよいというものではありません。
- 「座位が難しい子にとっては、バリアフリールームより広い脱衣所があるお部屋のほうが使い勝手がよかった」
- 「ベッドサイドのコンセントだけでは医療機器を繋ぎきれなかったので、電源タップの貸し出しをお願いした」
- 「体温調整が難しい子どもとの旅行で、保冷枕を持参したが、部屋に冷凍庫がなかった。宿に相談したら朝まで宿の冷凍庫で保管してもらえた」
これらは試泊の際に、ご家族からいただいた声の一例です。
実際に宿泊の受け入れをする経験と合わせて、試泊したご家族から、宿泊施設の方に直接フィードバックしていただく機会を設け、相互理解を進める活動にも取り組んでいます。
私たちTry Angleの役割
私たちTry Angleは「医療的ケア児の旅行・外出」に関わる様々な立場の方とつながり、それぞれの困りごとやニーズを聴き取り、相互理解を生み出す働きかけを行うことを自身の大切な役割と考えています。
これまでに私たちが取り組んできた、主な活動を3つご紹介します。
1)宿泊施設への試泊体験
当事者からはなかなか伝えにくい宿への要望やフィードバック、ご家族へ何をどのように確認したらよいか不安を抱える宿。私たちが両者をつなぎ、橋渡しをしていくことで、相互に学び合う対話の機会をつくっています。

具体的には、医療的ケア児とそのご家族、受け入れ体制を整えたい宿に試泊の協力をいただき、事前確認が負担なくやり取りできるように「コミュニケーションシート」をつくりました。
私たちが運営するポータルサイト「ててとて旅行舎」にも無料でダウンロードできるよう掲載し、実際にご家族や宿泊施設にて活用いただくケースも増えています。

2)学び合える「勉強会」の場づくり
旅行や外出には、宿泊先の宿だけでなく、その地域における観光事業者や医療・福祉事業者、医療的ケア児とそのご家族を支援する団体など、旅の行程の中で出会い・支えとなってくれる事業者の存在も欠かせません。
それぞれの立場から「医療的ケア児とご家族の旅行・外出」が楽しく、安心できる社会をつくるために、学び合いの場として「勉強会」の開催も昨年から行ってきました。

3)旅行の相談
宿泊となると宿だけではなく、旅先までの行程でおむつ替え(大きなお子さんの場合は乳幼児用は使用不可)や食事、痰の吸引などのケアも必要となるため、事前に調べておきたい情報が山ほどあり、情報収集で挫折してしまうという声も少なくありません。
事前準備のハードルが少しでも下がるよう、観光したい場所、泊まりたい宿などの情報を元にルートを一緒に調べたり、旅先の支援団体のご紹介などを行っています。
これらの活動をポータルサイト「ててとて旅行舎」を中心に発信し、取り組みを広げていくことで、旅への一歩が踏み出せていなかったご家族にとっても大きな力になっていきます。

「てとてがつながった」声
私たちを最初のつなぎ手として、それぞれの一歩を踏み出している方々をご紹介します。
様々な立場の方をつなぐTry Angleだからこそできることを、これからも続けていきます。




いただいたご寄付の使い道
皆さまからいただいたご寄付は、ポータルサイト「ててとて旅行舎」の情報拡充や、勉強会の安定的な運営、オンライン旅行相談会の実施、宿への試泊機会の創出など、医療的ケア児との旅を応援する活動に、大切に使わせていただきます(以下は使途の一例です)。
毎月3,000円を1年継続いただけると
「オンラインの旅行相談会」を定期的に開催できます
「行きたい場所がある。でも、その一歩が踏み出せない」そんなご家族の“声を聴き、次の一歩を後押しをする場”を支えます。
毎月5,000円を1年継続いただけると
相互につながり・学び合うオンライン勉強会を継続的に運営することができます
医療的ケア児のご家族や支援者、観光業の方々などが相互につながり合うことで、旅を応援する人たちの輪が広がります。
毎月10,000円を1年継続いただけると
エリアの特集記事を書くことで「行きたい」と思える場所につながります
地域の取り組みや宿の工夫を伝えることで、医療的ケア児と家族の“旅の選択肢”をひとつずつ増やしていきます。
これまでも、助成金やクラウドファンディングによるご寄付によって、「医療的ケア児の旅行ガイドライン」の制作、ポータルサイト「ててとて旅行舎」のリリース、「勉強会」の企画・運営を支えていただきました。
一方で、団体の継続的な運営資金が不足していることで、全国の商業施設・宿泊施設などの情報を掲載したり、相談を全国エリアに広げるまでには至っていません。
Try Angleが最初のつなぎ手として「医療的ケア児・家族」「観光事業者」「医療的ケア児を支援する事業者・団体」などからの情報共有を促し、相互に接点を持つ場をつくることで、「全国どこへでも旅を楽しめる!旅先の選択肢を持てる!」応援の輪をこれまで以上に広げていきます。
ぜひ、毎月の寄付で「病気や障害の有無にかかわらず誰もが旅行を楽しめる社会」の実現に向けてご一緒いただけると嬉しいです。
代表者メッセージ

2019年から、医療的ケアが必要なお子さんやご家族の旅行・おでかけを応援してきました。
温泉やカヤック、縁日…。医療的ケアのある子たちと共に、さまざまなチャレンジを重ねる中で、大人たちの経験や工夫が積み重なり、「次はこうしてみよう」と今後につながる道が生まれていく様子を見てきました。
子どもたちには、人を動かし、世界を広げる力があると感じています。
医療的ケアが必要なお子さんの外出や旅行には、パンフレットやWEBサイトだけでは解決できない悩みがたくさんあります。
大きなおむつ替え台、ミキサー食の対応、移動手段……。情報はあっても「実際に安心してそこに行けるか」を確かめるのは簡単ではありません。
だからこそ、『ててとて旅行舎』は、旅のカタログのように「行ってみたい」を思い描ける場所であり、工夫や悩みを分かち合える場でもありたいと思っています。
旅行に行きづらいという課題を直接的に解決するだけではなく、旅をする人も、迎える人も、みんなで学び合い、工夫し、試してみる。その先に、気づけば課題も解けている。そんな場になることを目指しています。
マンスリーサポーターとして関わっていただくことは、このつながりと学び合いの場を広げ、もっと多くのご家族に「行ってみよう」と思えるきっかけを届けることにつながります。
ぜひ、あなたも「てをつなぐ仲間」に加わっていただけたら嬉しいです。