
「1999年以来、26年連続14回目!」などと高校野球のように参加回数を勝手に誇っている私にとっての山形映画祭だが、2003年以降は、ボランティアのデイリーニュースや監督インタビューの仕事にずっと携わってきた。自分でも、ドキュメンタリーの情報発信や映画祭運営を担うようになった今も関わりを続けるのは、山形映画祭での仕事は、ひとえに私の原点であり、全てを学ばせてもらったからだ。
2003年、ドキュメンタリーが好きなただのフリーターだった僕は、この世界との関わりを模索するなかではじめて参加した。この頃の監督インタビューは、期間中の日刊誌「デイリーニュース」のボランティアスタッフが担っており、大学生や若手社会人の進行係を中心に、取材や記事作成の段取りや指導、翻訳者やカメラマンの手配、当日のトラブル対応や冊子の配布までが滞りなく行われていた。山形に加え、東京事務局でも行われる説明会には十数名が集まり、終了後はいつも飲み会。誰が事務局員なのかも判然としない和やかな空間で、物言わず奥でタバコをくゆらせている男性が、東京事務局長(当時)の矢野和之さんだったと知ったのは、少し後のことだ。畑あゆみ・現山形事務局長や加藤初代コーディネーターも、デイリーニュースでのインタビューの仕事が、今に至る山形との関わりの始まりだったと記憶している。
参加者・スタッフ・作り手が渾然一体と作り上げる山形映画祭の熱気は、それまでも観客として肌で感じていたが、ボランティア活動としては相当に主体的で、何より妙な活気があった。妙な、と書いたのは、時々理屈を超えたところで「事件」とも呼べる議論が発生するからだ。翻訳や表記の統一など「それ今言う?」的なことも多かったが、必ず原則に立ち返って議論する。職業的なプロもいたはずだが、デイリーニュースや記録集を作る過程では、プロもアマチュアも関係なかった。そこに1回目の映画祭で発足した「YIDFFネットワーク」に、小川紳介監督が地元山形の若者に吹き込んだ精神が流れていると知ったのは、だいぶ後になって、編集長の桝谷秀一さんから過去の記録集の余部をいただき、「事件」を含む歴史を、記録として読むことができたからだ。
その後10人以上の監督に取材をした年もあれば、撮影や新しい参加者へのフォローに徹した年もあった。記事の作成にはいつも苦労するが、下調べのポイントや質問の切り出し方、監督の反応への返し方など、インタビュー取材の基本は、ここ山形で体で覚えた感覚が私にはあって、それらはテレビでドキュメンタリーを作る仕事をするようになった今も生きている。
年度末に「成果物」として送られてくる記録集を手に取るのは、何よりも嬉しかった。大量に収録された写真をチェックしながら、自分の作った記事にニヤニヤしたり、反省したりする。自己満足の極みだが、山形映画祭のユニークさをあらためて実感する時間でもあった。普段は仕事も立場も異なる人間が、それぞれの持てる力を様々なフィールドで発揮している手作り感が、冊子をめくりながら蘇る。あの香味庵で「今年もいらっしゃいましたね」と毎回私に声をかけビールを売ってくれるお兄さん、元気かな!? そんなことまで思い出しながら、力が結集されることの謎や労苦に思いを馳せるのだ。
そんな個人的な感慨以上に、この記録集が「実際に役に立つ」と知ったのは、その後、自分がドキュメンタリーに特化した雑誌やWeb記事の発行、上映イベントのパンフレット編集を手がけるようになってからだ。今では山形で紹介された映像作家が、別の作品を携え、劇場公開されることも珍しくなくなったが、そんな時は、必ず山形の記録集を引っ張り出し、参照している自分がいる。そこにある情報の価値や、記事の質の高さにも驚かされるが、何か「原点」のようなものが刻まれている、そう思って何度も読み返してしまうインタビューが、たくさん収録されている。
監督インタビューのボランティアを初めた頃、強く印象に残った言葉に、ヤン ヨンヒ監督の「山形は私のドキュメンタリー学校」というのがあった。自分にとっても、そうかな!? 学んだことは多々あれど、たったひとつ「教わったこと」と言えるのは、デイリーニュースの「インタビューの仕方」の最初に書かれていた、この一文に尽きる。
「いちばん大事なことは、監督と作品、映画を創るということへの敬意を、忘れないことだと思います。これは、是非心にとめておいてくださいね。」
誰が書いたかは知らないが、心だけでなく、記録に留めておくことで、このスピリットは何倍にも、何十倍もの人に継承されていくはずだ。身をもって山形映画祭の読みものに触発され、成長させてもらった立場から、その手触りを、読者の皆さんにも伝えてゆきたいと思う。


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