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BankARTがオープンした2004年。その頃の私は、国際芸術センター青森で、アーティスト・イン・レジデンス(以下「AIR」)のキュレーターとして、新たな創造的プラットフォームの環境を作るための仕事をしていた。横浜におけるBankARTを中心としたアートシーンの活況ぶりは、クリエイターを中心に据えたオルタナティブ、アートイニシアティブの場を都市の中に醸成しようとするもので、クリエイターたちが、そこでのフィールドワークを重ね、ジャンルを横断する実験的な表現に取り組むことで、横浜市の都市としてのポテンシャルを引き出されていく様に心が躍った。地方都市で孤軍奮闘せざるを得なかった私たちに(きっと他の地域での活動をしていた多くの方々にも)、どれだけの勇気と力を与えてくれたことだろう。
その後、BankART Studio NYKを会場として実施された「TPAM」(現YPAM)において、プロデューサーを務めていたウェールズのコレオグラファーSioned Huwsによる青森と岩手でのクリエーション作品を2011年、2018年と2度にわたり発表させていただく機会を得た。会場が放つ独特の空気感と観客のエネルギーによって、ダンサーたちのパフォーマンスが最大限に引き出された公演は、生涯忘れえぬ素晴らしい体験として、今も記憶に鮮明に残っている。
海外、特に東アジアのアートシーンのAIRやオルタナティヴスペースに携わるアーティスト、ディレクター、プロデューサーたちの口からは、BankARTの名を聞かないことはない。これからもBankARTの存在は、拠点という実在を超えた運動体として、国・地域の内外を問わず、そして表現の領域を超えて、さまざまなクリエイターたちに多様な表現の場を与え続けることだろう。これからも無限に拡張するクリエーションの場としての可能性に、大きく期待を寄せている。
日沼禎子
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