
もう何年前になるだろうか? 池田修さんと村田真さんからある夜、「ちょっと来て」と最初のBankARTに呼び出された時のことを鮮明に覚えている。ドラマのロケなどでもよく利用された、あのアイコニックな銀行建築のビルヂングだった。お二人は、これから始めるであろうプロジェクトのあれこれについて、とりとめのない感じで、でも嬉しそうに語っておられ、私も「何か一緒にやらない?」と笑顔で声をかけてくださったのだ。その時のワクワクした気持ち、二人のお兄さんたちの期待に満ちた顔の輝き、村田さんの真ん丸な顔、池田さんのちょっと神経質そうなデリケートな顔立ちなど、あの建物の陰影を生みがちな照明の下、とても印象的な会談となった。
あれから何回のイベント、記念すべきトリエンナーレ、映画の上映会やパフォーマンスなど、忘れられない体験をBankARTでは重ねてきた。そこにはいつも池田さんがおられた。BankARTはいつもARTの現場だったけれど、その空間は建築としてのディテールに心が行き届いていて、それが池田さんらしさとなっていたような気がする。BankARTの主のような存在であった池田さんがいなくなってしまって、ついには横浜から施設としてのBankARTが無くなってしまうなんて、とても信じられない。願わくばそのスピリットだけでも、私たちの心の中で希望の燈として燃やし続けて行きたいと思う。
私の記憶に一番残っているのは2006年の企画展「食と現代美術 part2」でのイベント。現代美術家・岡﨑乾二郎さんの作品「甲羅ホテル」を能舞台に見立てて、能楽師の梅若猶彦さんに新作能を演じていただいた。そういう縦横無尽なことができるのはBankARTならではだった。
池田さん、BankART、そして関係者の皆様、どうも有難うございました!BankARTの次の1ページに何が待っているのか、またワクワクしながら楽しみにしている。池田さん、アートの神さま、これからもずっと見守っていて下さい!
岩渕潤子
