
盟友の葛巻徹が来年1月に行われる選挙に出馬すると表明しました。高橋博之は全力で応援することにしました。なぜか。その理由を説明しておきます。
彼と出会ったのはもう20年も前になります。当時、最年少岩手県議会議員だった僕は毎朝2時間、まちかどに立って演説をしていました。あるとき、演説を終えて後片付けをしていると、ひとりのずんぐりむっくりした男が僕の前にやってきました。それが葛巻徹でした。聞けば、それまで休日はパチンコ三昧の普通のサラリーマンだったのが、子どもが生まれたのがきっかけで、なんとなく社会や政治に関心を持つようになり、その延長線上で僕に興味を持ち、思い切って声をかけてくれたということだったと記憶しています。
選挙が目前だったので、僕はラッキーと思い、そのまま選挙活動に引き込み、以来、一緒に政治活動や地域活動に汗を流すようになりました。そして東日本大震災が起こり、彼は意を決して脱サラし、被災地復興に東奔西走。やがて地元の花巻でまちづくりに身を投じ、官民をつなぐ新しい公共の分野で経験を積んできました。というのが彼のこの20年間の大まかな歩みです。
「お任せ民主主義」の観客席の一番奥で頬杖ついて傍観していた普通の男が、恐る恐るグラウンドに降り、やがてフィールドの中でプレーするようになり、ついにはピッチャーマウンドに立つ覚悟を固めた、ということなので、僕としてはこんなにうれしいことはありません。なぜなら、県議時代から今に至るまで、僕が一貫して社会に伝え続けているメッセージは、「観客席からグラウンドに降りよう(他人事から自分事へ)」です。それを地で行くような生き様をしてきた彼を今では仲間としてリスペクトしています。
とはいえ、最初にこのことを告げられたとき、正直、耳を疑いました。葛巻徹を知っている人はみんなうなづいてくれると思いますが、岩手を代表するゆるキャラの彼は、頭のてっぺんから足のつまさきまでスーパー事務局長的存在です。みんなをぐいぐい引っ張っていくタイプでもまったくなく、弁が立つわけでもない。人知れず裏方に回り、舞台で脚光を浴びる演者のために黙々と作業しているような男です。首にタオルを巻いて、愚痴一つこぼさず。その葛巻徹が市長?と、まるで想像できませんでした。
しかしその後、1ヶ月間、早朝に歩きながらスマホの画面越しに彼と対話を重ね、考えを改めました。自分が考えていたリーダー像はもう古いんじゃないかと。振り返ってみれば、知事選に落ち、落ち武者のようにして被災地を放浪していた僕が、次の舞台へのきっかけをつかんだのは、葛巻徹がつないでくれた異世界への縁でした。
都市と地方の分断をビジネスの力で解決したい、という意思はあっても、そのとき持っていた限られた自分のネットワークでは実現可能な方法は見つけられませんでした。でも、彼に大都市のビジネスパーソンという僕にとっては新しい異質な世界とつなげてもらったことでその道は開かれたのです。実際、まさにその出会いが土台となり、その後の「東北食べる通信」、「ポケットマルシェ」、「雨風太陽」と、僕の意思は次々と形になっていきました。葛巻徹がそのとき引き合わせてくれた大塚泰造はNPO東北開墾の理事に始まり、今も雨風太陽の取締役として大きな力になってくれています。
僕だけじゃありません。岩手の被災地をはじめとする復興の現場や、日常のまちづくりの現場で、僕のようにくすぶっていた人たちの意思は、行政・住民、行政・民間、都市・地方などの異質な世界をブリッジする彼の”つなぎ”によって、一つひとつ花開いていきました。最初の一歩を踏み出す勇気がなかった人の意思、社会に届かない小さな声を張り上げ続けてきた人の意思、自信を持てずに地団駄を踏んできた人の意思たちが。つまり、葛巻徹は様々な背景を持つ名もなき人たちが、観客席からグラウンドに降りられる環境を整備し続けてきた名グランドキーパーなのです。
社会が縮小し、行財政資源が枯渇していくこれからの時代、自治体は「ひとつの大きな円」という統治システムで市民生活を支える発想から進化し、市民活動という「無数の小さな円」がたくさん生まれ重なっていくダイナミズムをいかに生み出せるかが問われることになるでしょう。一人ひとりができること、やりたいことを持ち寄って、つながりを生む。行政は、住民の「こうやりたい」をかなえるための環境を整え応援していく。関係人口も含めた背景の違う人たちが一緒に取り組むことで深み、厚みが生まれる。そして地域社会に活力が生まれてくる。
そんなこれからの自治体の役割、地域やまちづくりのあり方について、葛巻徹とあれこれ話していたら、気づけば、確かにグランドキーパーな彼こそが、これからの時代のリーダーに相応しいんじゃないかという気持ちになりました。以上の理由で、今回の花巻市長選挙、僕も観客席からグラウンドに降り立ち、当事者として葛巻徹と一緒にがんばることをここに宣言します。黄色いおじさんの挑戦、どうにかするぞ!