私が「株主アクション」という手法を初めて知ったのは2017年頃でした。「雪印100株運動」を知り、市民が協力して企業の姿勢そのものを変えた事例に衝撃を受けました。痴漢対策にも同じアプローチが使えるのではないかと考えたとき、胸がじんわり熱くなり、「これは社会を動かす現実的な手段になり得る」と確信した瞬間を、今でも覚えています。
しかし当時の私は、痴漢抑止バッジの発送も、デザインコンテストの運営も、問い合わせ対応もすべて一人で行っていました。やりたい気持ちがあっても、動き出す余裕がなかったのが正直なところです。だからこの案は、長い間“心の引き出しにしまっていた計画”のままでした。
■ 賛同の広がりが見せた、社会の本音
今回のポストには、多くの賛同の声が寄せられました。「参加したい」「協力したい」という前向きな反応が想像以上に多く、複数のDMが届いたときは本当に驚きました。これまでどれだけバズっても、“行動を一緒に起こしたい”というメッセージが届くことはほとんどありませんでした。だからこそ、今回の反応は、いま電車内痴漢に対して怒りや不安を抱える人が増えているという社会の温度をはっきり示していたように思います。
もちろん、Xにつきものの揶揄や煽りもありました。「どうせ何もしない」「考えただけでしょ」という声は、ある意味でいつものパターンです。正直、「また来たな」と落ち着いて受け止められる自分がいますが、「10年活動してきた私に“行動力がない”と言うのか」と苦笑してしまった部分もあります。
けれども、批判であっても反応が生まれるのは、社会がこのテーマに関心を寄せている証拠だと考えるようにしています。
■ 「何かしたい」という声が突きつけたもの
今回、私が最も心を動かされたのは、株主アクションへの賛同そのものではなく、「何かしたい」と願う人がこんなにも多かったという事実でした。痴漢被害に苦しむ人、子どもを守りたい親、安心して電車を使いたいと思う人、鉄道会社の姿勢に疑問を抱いている人。そうした多くの思いや葛藤が、今回のバズの中に折り重なっていたように感じます。
株主アクションは、企業を攻撃するための手段ではありません。社会を前に進めるための“対話の方法のひとつ”です。今回の反応を読みながら、この手段を必要としている人が確かに存在することを強く感じました。
■ 10年前の衝動と、今の私が抱える責任
私が痴漢抑止バッジプロジェクトを立ち上げたきっかけは、幼馴染の娘さんが痴漢に遭い続け、自作のカードをカバンに付けて登下校していると知ったことでした。あの時は怒りが一気に爆発し、ほとんど衝動だけで行動しました。あれができたのは、私が“個人”だったからだと思います。
しかし今の私は、社団法人として活動しています。勢いだけで動くことはできますが、それでは組織として無責任です。理事との合意形成、年間計画への落とし込み、社会的説明責任。どれも欠かせないプロセスであり、丁寧に整えていく必要があります。
現段階で言えるのは「前向きに検討しています」という言葉だけですが、その裏には“覚悟”があります。必要だと判断すれば、私は動きます。その準備は内側ではすでに始まっています。
■ 未来のために積み重ねていくこと
株主アクションは、社会を変えるための数ある手段のひとつにすぎません。
11年続くバッジデザインコンテスト、行政や警察との協働、若い世代とともに作る啓発活動、そして2026年から始まる企業サポーター制度。社会を動かす方法は一つではありません。
今回のバズは、「今こそ次の一歩を求める声」が社会の中に確かに存在していることを示していました。その声にどう応えていくのか。それが私自身と、この活動の次の課題だと考えています。
最後に、今回のポストに反応してくださったすべての方に心から感謝しています。賛同も批判も含めて、社会の空気が変わり始めていることを実感しています。この記事を読んでくださったあなたも、すでにその変化の一部です。これから一緒に、新しいアクションを形にしていけたら嬉しいです。

