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痴漢の恐怖とファッションの間で揺れた高校時代
亜季さんが初めて痴漢被害に遭ったのは、高校入学直後の電車の中でした。「痴漢は手で触ってくるもの」という認識しか持っていなかったため、腰を押し付けられる被害には気づきにくく、対処することができなかったといいます。特にラッシュ時では、痴漢なのか混雑なのかの判断がつかず、ただ怖い思いをするしかありませんでした。
当時はまだ痴漢抑止バッジも生まれておらず、彼女にとっては「ラッシュの電車に乗るのが一番怖い」という印象が残りました。
痴漢抑止バッジとの出会い
高校を卒業後、普段から可愛い系の洋服やメイクが大好きな亜季さんは、気合を入れてファッションを楽しんでいる日に限って、ナンパなどの嫌な目にあってしまいました。そんなことが続いて、だんだんスカートをはかなくなり、メイクも楽しめなくなったと言います。
でも、制服風コーデを知った時に「もう、負けたくない!自分が好きなものを着て楽しみたい」という気持ちが強くなりました。しかし、高校時代の痴漢体験がトラウマとなり、なかなか自分の思うスタイルを楽しむことができなかったそうです。
ある日、ふと「何か身を守る方法はないか」と調べていた時、亜季さんは「痴漢抑止バッジ」の存在を知りました。しかし、最初は身に着けることに不安もあったといいます。「バッジをつけることで逆に目立つのではないか?もし被害に遭ったり、暴言を吐かれたらどうしよう…」と迷いました。バッジの考案者の高校生も、周囲から暴言を浴びた経験があると知り、自分も怖い思いをするかもしれないと躊躇してしまったのです。
そのころ、亜季さんは「子どもは“この場所”でおそわれる(著:小宮信夫)」を読んでいて、身近に潜む性犯罪の実態についての理解を深めていました。その情報が痴漢抑止バッジの意義と重なり、次第に「自分を守るために使ってみたい」と思えるようになったといいます。そして、申し込みを決意し、バッジを手にした亜季さんは、ついに電車乗車時にバッジを身に着けてみることにしました。
バッジをつけることの安心感とファッションを楽しむ喜び
いざバッジをつけて電車に乗ると、緊張や不安もありましたが、予想していたような嫌な思いをすることはなく、痴漢被害にも遭いませんでした。徐々に安心感が生まれ、今では制服風コーデも楽しめるようになったといいます。短めのスカートも、痴漢抑止バッジがあることで安心して着られるようになり、自分のファッションに自信を持てるようになりました。
亜季さんにとって痴漢抑止バッジを身に着けることは、単に身を守るためだけでなく、「防犯活動に参加している」という自信につながっているといいます。「誰かの役に立てるかもしれないと思うと、安心感と同時に周囲を守る意識も生まれました」と彼女は話します。
バッジに込めた意志—性別関係なく、被害をなくしたい
SNS上には、「痴漢抑止バッジをつけるなんて男性差別ではないか?」という意見も見受けられますが、亜季さんは全く逆の考えです。「痴漢抑止バッジは、性犯罪の被害者の性別を限定するものではありません。男女を問わず、誰もが被害に遭わないことが理想です。私にとってバッジは『性別に関係なく、痴漢にあって欲しくない』『困っていたら力になります』という意思表示の象徴です」と語ってくれました。
痴漢に悩む人たちへのメッセージ
「痴漢抑止バッジが欲しいけど、まだ怖いと感じるなら、無理をする必要はありません」と亜季さんは言います。バッジを身に着けることで目立つかもしれない、リスクがあるかもしれないという不安があるうちは、自分の心に素直でいることが大切だと考えています。性犯罪は決して軽い問題ではなく、痴漢抑止バッジを身に着けるのは、意志が十分に固まった時で良いのです。
今では「入試の時期に痴漢が増える」というニュースを見ても、「自分は痴漢抑止バッジを身につけているし、誰かが困っていたら助けるよ」という心の余裕も生まれたといいます。亜季さんは「痴漢抑止バッジが普及し、社会全体で痴漢行為を許さない意識が高まっていけば」と願っています。
最後に
痴漢抑止バッジは、誰かに何かを強いるものではなく、痴漢行為を防止するための一つの選択肢です。「身を守りたい」「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持ったときに、ぜひ選んでみてください。亜季さんのように、痴漢防止への意識を自分らしく表現しながら、好きなファッションを楽しむ生活を一歩ずつ実現していきましょう。