
「怖くて声が出せなかった」「顔を覚えていなかった」――それでも、伝えてくれたことに意味があった。
声を上げることには、確かな力がある。
そしてそれは、被害にあった人だけでなく、目撃した人にとっても大事な行動です。
熊本の痴漢事件――似顔絵がきっかけに
熊本のJR豊肥線で起きた痴漢事件。
10代の女子生徒たちが満員電車の中で被害に遭い、それぞれが警察に被害届を出しました。警察は証言をもとに4枚の似顔絵を作成し、捜査に着手。車内での張り込みの結果、容疑者が特定され、逮捕されました。
決め手は、服装の違和感。「満員電車で白Tシャツ、手ぶらの男」という特徴が、目立っていたそうです。
警察は「生徒たちは恐怖心がある中で、よく顔を覚えてくれていた。思い出したくないことだろうけど、協力してくれて助かった」と語っています。
「覚えていた」のではなく、「覚えなきゃいけなかった」
この発言には、被害者の重い体験がにじんでいます。
電車という逃げ場のない密室で、身体を触られ、誰にも助けを求められなかった――そのなかで「顔を覚えよう」と思うこと自体が、どれほどの緊張と恐怖の中にあったかを想像せずにいられません。
私は以前、「痴漢ゼロのしゃべり場」に警察の方をお招きしたことがあります。
そのとき、「顔を覚えていなくても意味がある」と言われました。服の色、持ち物、腕時計、靴――どんな小さな情報でも、複数の証言がつながれば加害者の特定につながる。
今回の熊本の事件は、それを証明するような出来事でした。
京都の事件――防犯カメラが決め手に
JR山陰線で起きた別の事件では、42歳の市職員が、電車内で隣に座った女子高校生に性的暴行を加えたとして逮捕されました。
彼女は「怖くて声を出せなかった」と話しています。でも翌日、学校の先生に相談したことで、警察が捜査に動き、防犯カメラの映像などから加害者が特定されました。
このケースが伝えているのは、「その場で声を出せなくても、あとから声をあげることで社会は動く」ということです。
一人の声ではなく、つながる声が加害者を特定する
「自分の証言では犯人を特定できないかもしれない」
そう思って、口をつぐむ人も多いと思います。
でも、今紹介した2つの事件は、こう伝えています。
声を上げることには意味がある。
そしてその声が、他の情報とつながることで、加害者を特定できる。
それは被害者だけに責任を負わせてはいけません。
電車内で不審な行動や、誰かが困っている様子に気づいたとき、「自分は関係ない」と思わず、目撃者として声をあげてください。
熊本の事件では、捜査員が張り込みをしていたところ、似顔絵に似た容疑者が、女子生徒の後ろをついて回るなど、不審な行動をしていたため、話をきくと犯行を認めたそうです。
違和感のある人を見かけた時、すぐに声をあげるのは難しいと思います。でも、そっと様子を伺い、状況を見守ることはできるでしょう。その時に、困った様子の子がいたら、被害者に声をかけてあげてください。
「どうしたの? 体調悪いの?」 でも、知り合いのフリをして「おはよう。久しぶりだね」でも、「よかったら、場所変わろうか?」でも。なんでもいいから声をかけるとか。
防犯アプリの「痴漢されていませんか?」の画面を見せるやり方もあります。
加害者を捕まえなくていいです。被害者を守ってほしいです。
「情報が力になる」社会をめざして
今回の事件では、被害者の証言だけでなく、目撃情報、防犯カメラ、服装の特徴など、複数の要素が組み合わさって加害者が絞り込まれました。
つまり、声や情報が集まれば、社会は動く。
「顔を覚えていない」
「怖くてその場では言えなかった」
それでも、何かを覚えていた。話してくれた。共有してくれた。
それが、逮捕という形にまでつながったのです。
私たちが声をあげることに意味がある
声をあげたから、情報が集まりました。
声をあげたから、警察が動きました。
声をあげたから、加害者が逮捕されました。
だから、声をあげることには意味があります。
被害者だけでなく、目撃者の声にも力があります。
「自分には関係ない」と目をそらすのではなく、「自分にもできることがある」と気づく社会を、私たちは少しずつ、でも確実に作っていきたい。私たちはそう願っています。
読んでくださってありがとうございました。当センターの活動に共感してくださる方は、ぜひサポーターになって活動を支援し参加してください。みんなの声と力で性暴力のない社会の実現を目指しましょう。