
教員による性加害が相次ぐ現実
文部科学省の調査によると、2022年度に性犯罪・性暴力で懲戒処分などを受けた教員は242人。
そのうち119人が児童生徒への行為でした。
数字にすれば教員全体の0.03%。
「ごく一部」と思えるかもしれません。
けれど、教育の場という信頼関係の中で起きる一件一件の重さは計り知れません。
最近は盗撮を含む事件の報道も相次いでいます。
子どもに接する立場の大人が加害者になる。
それは社会にとって、子どもたちにとって、深刻な裏切りです。
『言えないことをしたのは誰?』が描くもの
作品の主人公は、中学校の養護教員。
保健室にかかってきた一本の電話から、物語は始まります。
「中学時代に男性教員から性暴力を受けた。その人が今も学校にいる」
その告発をきっかけに、主人公は孤立しながらも真実を追い、同僚の協力を得て加害教員を特定していきます。
作品では、生徒が被害に遭う過程、そしてその後の長い年月にわたる深刻な影響が丁寧に描かれています。
被害者が「自分は被害に遭っていた」と気づくまでに数十年かかることもある。
そのことを作中では「時限爆弾」と表現しています。
グルーミングの実態を知ること
この本の大きな意義は「グルーミング」を描いていることです。
子どもを巧妙に手なずけ、信頼関係を装いながら近づく。
その手口は相手によって変化し、子どもはすぐには被害と気づけません。
だからこそ、全ての教員がグルーミングの実態を知っていること自体が抑止力になると思います。
「周囲は理解している」「隠せない」と加害者に思わせることが、被害を未然に防ぐ力につながるのです。
一人の教員としてどう行動するか
物語の中で主人公は孤立していきます。
これは現実でも起こりうること。
でも、本当は「声を上げる人」が孤立してはいけません。
同僚の加害行為を知ったとき、子どもからSOSを受けたとき、どう行動するのか。
一人の教員としての態度が、子どもの人生を大きく左右します。
読書から始まる変化
2025年6月には「こども性暴力防止法」が成立しました。
制度は整いつつありますが、法律だけでは子どもを守れません。
現場で子どもと向き合う大人が危うさに気づき、声をかけ、止める力を持てるかどうか。
そのための第一歩は「知ること」、そして「学ぶこと」です。
課題図書にしてほしい理由
だからこそ、私はこの夏、教員の課題図書として『言えないことをしたのは誰?』を強く薦めたいのです。
これは「加害者を暴くため」ではなく、「子どもを守るため」「同僚を守るため」の一冊です。
読んで、自分の中で考え、周囲と共有していく。
その積み重ねが、未来の被害を減らすことにつながると信じています。