
被害者に自衛を求めない
警察庁の「痴漢・盗撮事犯対策サイト」は、コチラです。ぜひ多くの方に見てほしい。PDFもあるからDLしてほしいと、私は思います。
これまで長い間、痴漢の防犯啓発といえば「痴漢に気をつけましょう」と被害者に呼びかける言葉が中心でした。
暗い夜道は歩くな、イヤホンをつけたまま歩くな、スマホに夢中になるな、露出の多い服を着るな。etc.
そうした「被害に遭わないように気をつけろ」という文言が並んでいたのです。
しかし、今回のサイトにはそのような表現が一切ありません。
これはとても大きな変化です。「痴漢に遭わないように、注意しろ」と言われたら、被害にあったときに「自分にも落ち度があったのかも……」と、被害者は自分を責めてしまいます。
私は断言します。痴漢は100%加害者が悪い。被害者に落ち度があるように言うのは間違っています。
今の警察庁の防犯サイトでは、「痴漢は犯罪です」「被害にあったら声を上げてください」と明確に書かれていますが、被害者の不注意を責めるような文言は一つもありません。
ようやく警察の認識がここまで変わったんだ! と驚きとともに、心から嬉しくなりました。
目撃者に行動を促す
次の推しポイントは、目撃者に行動を促している点です。
これまでは「被害に遭ったら助けを求めて」というメッセージで終わっていました。
けれど新しいサイトには、「被害を目撃したら、被害者に声をかけてください」とはっきり書かれています。
見て見ぬふりや、傍観するのではなく、被害者に「大丈夫ですか?」と声をかけること。
周囲が助ける責任を持つ姿勢が示されたのです。
アクティブバイスタンダーという言葉は使われていませんが、まさしくアクティブバイスタンダー! 見て見ぬふりはやめて、行動する第三者になろうと周囲の人に呼びかけているのです。
PDFには、「痴漢を取り押さえるのが難しかったら、席や場所を代わってあげるだけでも効果がある」や「声を掛けづらかったら、防犯アプリの『痴漢されていませんか?』画面を見せる方法もある」と紹介されています。
漠然と「見て見ぬふりをしない」ではなく、具体的で実行しやすいアクションが書かれているところが、非常にポイントが高いです。
ちなみに、加害者を捕まえなくてもいい。まず被害者を守ろう。被害者に声をかけよう――これは痴漢抑止活動センターも10年前から提唱してきました。
加害者を「普通の人」として描く
そして、もうひとつ。大きな変化がサイトのイラストにあります。
従来のポスターや啓発資料では、加害者は黒いシルエットで描かれていました。被害者はリアルに描いているのに、加害者の方はまるで得体の知れない怪物のように表現されていたのです。
今回のサイトでは、加害者がごく普通の人間として描かれています。
痴漢は特別な怪物やヘンタイがするのではなく、日常の中にいる“人”が加害者になっている。
私は、特にこのイラストの変化に驚きました。現実を正面から示したことで、痴漢犯罪の深刻さがより一般の方に伝わります。
被害者に寄り添う姿勢
さらに、被害届を出すときの不安に寄り添う表現が加わりました。
「希望に応じた性別の警察官が対応します」「心の負担に配慮します」などの言葉です。
それだけではなく、被害の届け出を受けた際の警察の対応についても具体的に詳しく書かれています。
被害を訴えたあと、どんな対応が待っているのかわからなければ、被害者の不安は大きくなります。事前に、これからどういう手続きや調査があるのかを知っているだけで、心の負担はかなり軽減するでしょう。
「警察に行っても、痴漢くらいと冷たく扱われるのでは」と感じていた人へ、警察を頼る後押しになるはずです。
そのほかにも、今回のサイトには、防犯アプリやワンストップ支援センター、相談電話などが具体的に紹介されています。
「どこに相談したらいいのか分からない」というハードルを下げ、実際に被害者が相談しやすくなっています。
痴漢犯罪について、以前は「加害者と被害者の問題」という扱いでした。しかし、今回のサイトからは、社会全体で「痴漢は許さない」という空気を作る意思を感じます。
こうした変化が起きた大きな理由は、内閣府が 「若年層の痴漢被害等に関するオンライン調査」(令和6年) を実施した結果などが反映されているのでしょう。
私たちとしては、痴漢抑止活動を始めた10年前から訴え続けてきたことが、ようやく社会に、警察庁のサイトに反映されたというのがとても嬉しいです。
今後、痴漢に対する社会の視線が大きく変わっていくでしょう。 一緒に「痴漢を許さない社会」をつくっていきましょう。