活動・団体の紹介
私たちは野生動物管理の専門家、すなわちワイルドライフマネジャーの養成を目指しています。
世界自然遺産・知床の経験と、科学的・文化的に多様な「知」の蓄積を生かした新しい教育活動を展開しています。
活動の背景、社会課題について
我が国の野生動物をめぐる状況は転換期にあると言われています。
農林水産業被害や生態系への悪影響など、野生動物による様々な問題が全国各地で発生しています。その一方で、野生動物管理に携わる都道府県や市区町村の担当者は、十分な支援が得られない状況で孤軍奮闘しています。多くの担当者が専門的知識・経験を持つ職員の配置を求めています。
こうした中で、2019年、日本学術会議は「人口縮小社会における野生動物管理のあり方」を環境省に対して提言し、野生動物管理専門職の養成必要性を特に強調しました。この提言を受け、2020年度には国の組織と研究者からなる「野生動物管理教育プログラム検討会」が設置され、モデル・コア・カリキュラムの策定作業が始まるなど、国レベルでの専門家養成の検討が開始されました。
ただ、この試みは端緒についたばかりです。専門家育成は喫緊の問題であり、そうして育成した人材の社会実装(配置)が急務です。
このため、当財団では、2016年から、設立を目指している大学院相当の高等教育機関において受けることができるモデル教育プログラム「知床ネイチャーキャンパス」を開始しました。野生生物の生態やその保護管理の研究者などによる講義と、知床をフィールドとした実習、グループワークによる地元への提言を課題とする演習をセットにした実践的教育プログラムです。また、オンラインを活用した連続講座や、かみ砕いたトークショー仕立ての「知床ネイチャートーク」などの関連プログラムも実施しています。
活動の成果
これらの教育プログラムにより、既に2000人もの受講生が、ワイルドライフマネジメントの世界に触れ、その重要性や自然生態系や生物多様性の保全について学んできました。受講生の中からは、研究職や専門職としてこの問題に取り組んでいる人も多数輩出。また、社会人を対象としたリカレント教育も実施し、都道府県や市町村で野生生物保護管理業務に講座実習の成果や経験を活かしていただいている方も多数います。
代表者メッセージ
知床自然大学院大学設立財団が公益財団法人の認定を受けて10周年の節目に、代表理事に就任しましたので、ご挨拶申し上げます。
当財団は、野生動物と人間社会の間に生じたさまざま問題の解決と、共生のための新しい思想・技術を創出し、その実践を担う専門家(ワイルドライフマネジャー)の養成の実現をめざしています。
人口が減少する一方で、シカ・イノシシ・クマ類など大型獣の分布拡大と生息数の増加が起こり、農林業被害のみならず生態系にも影響が生じています。また、クマ類の居住地への大量出没が頻繁に発生し、昨年は深刻な社会問題となりました。
このような背景から、環境省は日本学術会議へ「人口縮小社会における野生動物管理の在り方」の審議依頼を行いました。その回答の中で、地域に根差した野生動物管理を推進する高度専門職人材の教育プログラムの創設が提言されています。それを受けて、関係省庁と大学間連携のもと、モデル・コア・カリキュラムの策定と試行が実施され、社会実装の検討が続けられています。
わたしたちは、この人材養成を実現するための実践的活動として、2016年から現場教育や実践的トレーニングに重点をおいた「知床ネイチャーキャンパス」を実践してきました。私たちは、これまで蓄積してきた「知床ネイチャーキャンパス」プログラムを海・川・陸域に生息する野生動物、自然環境、人間活動の相互関係を理解し、よりよい関係を構築するために、発展させて継続的な開講を予定しています。
そして、学びの対象者をこれまでの大学生・大学院生・現職者等から、高校生や一般住民にまで拡大し、ワイルドライフマネジャーを核としながら環境全般専門職、若年者教育、研究者の養成を目指します。
今後とも変わらぬご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
梶 光一(東京農工大学名誉教授)
寄付金の使い道について
寄附金・賛助会費は、「知床ネイチャーキャンパス」をはじめとする講座などの公益事業や、財団の運営のために用いられます。