Q. 設立の経緯についてお伺いできますか(川田)
山本さん:
フードバンク活動を行っているつなぐBANKは、一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさきの活動から生まれました。ひとり親家庭福祉会ながさきは、昭和25年に設立し、平成26年から、DVや虐待を受けた家庭の子どもたちだけが利用できる、長崎県内で唯一の「問題解決型子ども食堂」を週に3回運営してきました(※1)。
このような活動を広く発信する中で、多くの食品が集まるようになり、それらは子ども食堂で使用するだけでなく、子ども食堂の利用家庭にも提供するようになりました。しかし、子ども食堂に来られないご家庭からの相談が増え、「子ども食堂に来られない人々に、どのようにして『食』を届けるか」という課題が浮かび上がってきました。
そこで、フードバンクの仕組みを活用し、ご寄贈いただいた食品を支援を必要とするご家庭に確実に届けることで、その家庭の問題解決につながる支援を行いたいと考え、2年間行政や民間団体に必要性を説明し、運営委員会形式の「つなぐBANK」を立ち上げることにしました。
※1:現在は週に1回。
Q. 活動にあたって大切にしていることや理念について教えてください(川田)
山本さん:
私たちは、「相対的貧困から子どもたちを守る」ことを理念に活動しています。子ども食堂には、貧困や困難を抱えた子どもたちが多く訪れます。学用品が揃えられなかったり、学校の購買でパンを買えずに我慢している子もいます。そうした体験は、子どもたちから夢や希望を奪ってしまいます。
そのため私たちは、子どもだけでなく、家庭全体を支える支援を大切にしています。保護者が体調を崩したときにはご家庭を訪問して家事を手伝い、子どもたちには無料の学習支援を提供しています。また、空腹のまま学習支援を利用しに来る子どもたちのために、ご協力いただいているパン屋さんから毎日パンをいただき、学習室に届けています。
私たちの活動の中心には常に「食」があります。「食」を通じて家庭全体を支えることで、学習、生活の基盤までも支援できると考えています。そうした思いから、食品だけでなく学用品や生活用品も支援の対象とする「つなぐBANK」の活動を行っています。
Q. つなぐBANK様で行っている「宅所」や「グッズバンク」について詳しく教えてください(川田)
山本さん:
つなぐBANKでは、食品や生活用品をただ届けるのではなく、利用者に「宅所」に来ていただき、対面での支援を大切にしています。宅所では、食品の受け取りに加えて、弁護士・医師・行政職員などの専門家による相談支援も同時に受けられる体制を整えています。訪問では限界のある支援も、その場で複数の専門家が連携することで、迅速に対応できるのが大きな特徴です。また、いつでもLINEでの相談を受け付けています。
加えて、「食」を入口に、文具や書道セット、鍵盤ハーモニカ等の、必要だけれど買うことのできない季節物の学用品などを支援するため、「グッズバンク」も併設しています。子どもたちが嬉しそうに本を選んだり、必要なものを手にする姿からも、こうした支援の大切さを実感しています。私たちは、家庭全体を支えることを目指し、「食品ロスで地域の課題を改善する」という思いで継続的な支援を行っています。
Q. 今回のプロジェクトでの具体的な活動と、印象的だったエピソードがあれば教えてください(川田)
山本さん:
今回のプロジェクトでは、LINEでつながっている2,300世帯以上のひとり親家庭に対し、プロジェクトの背景や協力いただいている企業・団体について丁寧に伝えることを大切にしました。
夏休み期間中は支援を強化し、通常は偶数月のみの食料支援を、特別に7月にも実施しました。お米の量を増やしたほか、子どもが一人でも食べられる食品やアイス、お菓子、学用品なども用意しました。さらに、企業と連携し、社員食堂での食事付き学習支援や、機材を無料で貸し出してオンライン授業に切り替えるなどの支援を行っています。
印象的だったのは、支援の背景をしっかり伝えたことで、「ただ食品を取りに来ていると思っていたけれど、多くの人やプロジェクトが関わっていることを知り、子どもにも伝えました」といった声をいただいたことです。中には、子どもと一緒に全国フードバンク推進協議会について調べたというご家庭もありました。支援の背景を伝えることが、支援の意味や価値を深めることにつながると実感しています。
Q. これから新たに始めたい事業や活動があれば教えて下さい(川田)
山本さん:
現在は、県が所有する建物の一角を倉庫としてお借りしていますが、建物内での運用には制限があり、今後は独立した大きな倉庫を確保したいと考えています。特に冷凍食品はナガサキロジスティクス様のご厚意で大型の冷凍倉庫を利用させていただいており、大変助かっていますが、より広いスペースの整備が今後の課題です。
また、長崎は水産業や農業が非常に盛んで、じゃがいもやブロッコリーの生産量は全国でも上位に入ります。一方で、第一次産業にはフードロスが多い現状があります。そこで今後は、つなぐBANKを通じて、長崎の水産物や農産物のロスを他県のフードバンクにも提供できるような流れをつくり、地域の豊かな資源を全国に活かしていく仕組みを確立したいと考えています。
インタビューを終えての感想(インターン生 川田)
お話を伺う中で、食品などの支援は単なる支援物資ではなく、子どもたちが夢を語るきっかけとなり、家庭全体の課題解決につながるための「入り口」になるという考え方に深く感銘を受けました。支援を必要とするご家庭に対して、ただ食品を届けるだけでなく、その背景にある想いや仕組みを丁寧に伝え、支援の意味を深めていく姿勢が印象に残っています。
特に印象に残ったのは、対面でのやりとりを大切にした「宅所」の取り組みです。行政や専門家と連携し、その場で課題を抱えるご家庭に多角的なサポートを届けている様子から、「支援=物資提供」という枠を超えた、問題解決型の支援のあり方を学ばせていただきました。また、長崎という地域の特性を活かし、農水産物を他県とつなげる構想や、大型倉庫の課題など、現場でなければ見えないリアルなお話も大変貴重でした。
今回のインタビューを通じて、自分自身がこれから社会の中でどのように人と関わり、どんな形で力になれるかを考える大きなきっかけをいただきました。今後も学びを深めながら、誰かの未来を支える人になれるよう努力していきたいと思います。

インタビュー時の様子(インターン生 川田)
一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき(つなぐBANK)様の取り組み
一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき(つなぐBANK)様は、長崎県を拠点に《ひとり親家庭の支援》と《食品ロス削減》を両立する活動を行っている団体です。支援が必要なご家庭へ食品や生活用品、学用品を届ける「つなぐBANK」の運営をはじめ、学習支援、「宅所」での生活相談、行政・医療機関との連携など、地域に根ざした「問題解決型」の支援を展開しています。
一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき(つなぐBANK)様の活動の詳細はこちら
一般社団法人ひとり親家庭福祉会ながさき:https://www.nagasakishi-boshikai.jp/
つなぐBANK:https://www.tsunagubank.jp/

