イヌワシの聖地・南三陸
欧米の鳥類学が導入されて以降、日本で最初にイヌワシの繁殖巣が報告されたのは昭和10年代、長野県下の2巣でした。3例目の報告は昭和30年、北上山地の南端近く、標高500m前後の山が連なる翁倉山域からなされ、それまで人跡稀な深山幽谷の鳥とされていたイヌワシの常識を覆しました。
発見・報告者であり、在野の優れた研究者であった故・立花繁信氏の論文は、日本におけるイヌワシ研究の画期となり、また、同地は「イヌワシ繁殖地」として国の天然記念物に指定され、種としてのイヌワシの天然記念物指定とともに、日本におけるイヌワシ保護の契機となりました。
南三陸地域は、日本のイヌワシ保護と研究の黎明期を支えたメルクマールとも云える土地です。
そんな南三陸地域でも、イヌワシは減少の一途を辿り、ここ数年は定着ペアが見られない状態です。私たち南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクト協議会は、そのような状況を改善すべく、国有林をはじめとする山林事業者や関係諸団体に働きかけ、2016年から会合を重ね、2021年5月に正式に協議会として発足しました。「イヌワシのふるさと」とも呼ぶべき南三陸の空に、ふたたびその姿が戻る日のために活動を続けています。
活動のふたつの柱
南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクト協議会の活動は、ふたつの柱から成り立っています。
ひとつは、山林事業者との連携による持続可能な山林業の推進。
もうひとつは、ボランティアとの連携による火防線トレイルの整備。
日本のイヌワシが絶滅の危機に瀕している大きな要因は、山の環境の急激な変化とされますが、別に山から樹木がなくなったわけではなく、逆に山々が樹木で覆われてしまったことによる変化です。
翼を広げると2mを超えることもあるイヌワシは、じつは森林よりも草原や荒地といった開けた山の環境を好む鳥です。列島に暮らす人々は周辺の自然を上手に利用することで暮らしを成り立たせてきましたが、高度経済成長以降、人と山との関わりが大きく変化し、長引く林業不況も手伝って、山々は手入れの行き届かない痩せた木々にびっしりと覆われてしまいました。これでは身体の大きなイヌワシは十分に餌を捕れず、ヒナを育て巣立たせることもできません。
持続可能な山林業をしっかり進めることは、小面積の伐採地や植林地など、イヌワシの餌狩り場となる開けた山の環境を、イヌワシの生息域内にモザイク状に創出することに繋がります。また、かつて山火事の延焼防止のために設けられていた火防線跡を刈り払うことでも同様の効果が期待できます。
南三陸町と気仙沼市、登米市、石巻市の境界をなす火防線はおよそ60kmにも及び、志津川湾に注ぐ河川集水域の分水嶺ともほぼ一致することから、山と海の繋がりを深く学ぶことのできるフィールドとしても期待できます。
ご支援の使い道
いただいたご支援は、協議会の活動を実効的に進めるための資金として使わせていただきます。
先に掲げたふたつの柱となる事業の他、活動の基礎となるイヌワシの生息状況や現状植生等の把握、イヌワシの生息環境再生のための具体的な山林業の数値目標設定に向けた調査検討と検証、普及啓発や交流連携のためのフォーラムや観察会の開催、さらにはそれらの活動を着実に進めるための事務局運営費等として活用させていただきます。
なお、元サイトに記載の絵本「イヌワシの棲む山」の売り上げも同様に全額が活動資金となります。
ご支援ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。