こんにちは。パルシックレバノン事務所のアンソニーです。
皆さまからの温かいご支援のおかげで、目標の84%を達成しました。お寄せいただいているメッセージにも励まされ、心新たに目標に向かっています。
レバノンにおけるシリア難民危機の影響と現状についてはこれまでもお伝えしてきました。今回は、危機の経緯と、この問題に対するレバノン政府とシリア政府の現在のスタンスについて整理してお伝えしたいと思います。
2011年から2014年にかけて、レバノン政府は危機以前に実施していた国境開放政策を継続し、シリアの人びとは難民ではなく一時的な「訪問者」として扱われていました。パレスチナ難民危機でパレスチナ難民が長期定住した過去の経験から、レバノン政府は「難民キャンプ禁止(No Camp)」という方針を取り続けていました。
その後、レバノンで暮らすシリアの人びとは、法的手段による締め付けの時代を迎えます。2015年に居住規制が導入され、その結果、2016年までに約80%が不法滞在者という扱いとなりました。

2019年の経済危機後、レバノン政府はシリア難民を責任の転嫁先として利用し、反難民の姿勢をエスカレートさせました。政府の措置には、コンクリートなどでできた居住シェルターの破壊や強制送還を容認する内容が含まれていました。
そして、2024年12月のアサド政権崩壊を受け、現在のフェーズに入ります。レバノン政府とシリア政府の現在のスタンスは、両政府間の正常化とさまざまなインセンティブを通じて難民の帰還を促すというものです。これには、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との連携による自発的帰還プログラムや、インセンティブとして、出国手数料・滞在超過罰金・再入国禁止措置の免除、さらに交通費として100ドルが支給などのインセンティブが含まれます。
現在、推定50万人のシリアの人びとがレバノンからシリアに戻っているとされていますが、これはスンニ派の人びとに限られています。アサド政権と結びついていたアラウィー派やシーア派の人びとは報復や暴力を恐れてシリアからレバノンへ逃れ、19万人近い新たな難民がレバノンに流れ込んでいるとみられています。
アサド政権崩壊後も、シリアの経済・社会情勢は不安定なままです。多くのシリアの村では治安は不安定で、地方の道路では誘拐や軽犯罪がより頻繁に発生しています。シリアの人びとは、受け入れを拒否するレバノンか、不確実な生活が待つシリアへの帰還かの選択を迫られ続けている状況です。
シリアの人口の90%は極度の貧困状態に置かれ、不発弾が各地に残り、イスラエルによる絶え間ない空襲の脅威が続くなか、再建には2,160億米ドルという途方もない額が必要とされています。この危機は簡単には解決されず、長期化すると見込まれています。



